平成18年度  健康管理報告書

                                      知的障害者更生施設 鷹取学園

                       園長補佐兼看護婦 山下桂子

〈全体的な健康管理〉

平成18年度も1113日にインフルエンザの予防接種を早めに行い、生活においても徹底して手洗い、うがいの指導を行い、加湿器の使用などで対応しました。

正月帰省明けの14日より、嘔吐、下痢症が流行りましたが、症状は軽く、12回の下痢か嘔吐で治まり、全体で5日間ほど続いて(15日〜9日)20数人が罹り内、38℃以上の熱発者が3人出ましたが回復も早く、ノロウイルスと診断するには症状、状況が弱く、アッという間のできごとでした。嘔吐、下痢の後始末だけは、これも行政指導の通り徹底して、消毒をいたしました。(塩素系の漂白剤でもって汚した物(衣類・寝具・床・小物)の消毒を行う。)

平成18年度も前年度に変わりなく、行政指導の範囲を計画として健康管理を行い、管理に関しては先ず予防に重点を置いて進めてきました。入所者に対するケースバイケースの対応を重要視し、個々の健康を充分に維持管理出来たと思います。

当園は、重度、最重度の入所者が多く、保護者も高齢化しています。父母ばかりではなく、兄弟姉妹の保護者の方も高齢化しており、親亡き後の問題がまさに現実のものとなっています。亡くなられた保護者の中には、「保護者亡き後の、重度知的障害者を最後まで看取ってくれることのできる病院(学園併設)の存在を希望したい。」との声を残して去られた方がおられます。学園は平成4年度から、ずっと行政機関に対して、問題点として提示して来たところであります。

現在の学園職員の数及び体制では、入院時には充分な手が届かないのが実態でありますが、現実に起きればどのような方法をもってしても対応していかなくてはならないという現実問題が生じています。平成15年度から支援費制度が始まりましたが、通院支援と受診時の支援までが施設側の支援対象となり、後は家族任せになっています。最重度の知的障害者を抱える施設にあっては、医療関係の内容が重要なところとなるわけですが、今回、始まった支援費制度は医療部門のサービス内容は考えられていません。しかし、今まで必要であったことを、制度が変わったからといって切り捨ててしまうわけに行きません。これを切り捨てれば、当園で今までお世話して来た数十名の対象者を学園から退所させるという切り捨てを行わなければならなくなるわけです。

平成18年度は 3例の入院がありました。 具体的には(1)、39歳の男性、舌噛傷(30針以上の縫合)で入院、(朝〜消灯まで両親、姉が交代で付き添う)。精神症状があり精神科病棟でベットに抑制される。 

(2)38歳の男性で直腸粘膜脱出(瘤状の変形)摘出の手術で入院、精神症状があるため、個室の24時間体制で母親が付き添われる。

(3)46歳男性、内痔核の手術で入院、(家族全員で付き添われる。)ショック症状を起こしやすいため、入院手術は地域連携医療を使われる。手術直前までの診療については学園側が引き受ける。これは母親が高齢で、兄家族の事情もあり、また、本人は病弱、重度で自己中心が強く、本人が手術に踏み切るまで毎日の説得に半年かかる。

医療機関から学園への条件は、24時間体制の付き添い1週間、内入院の日と手術の日は学園側ということ。

3名については、学園が医療機関に対し、いかに知的障害者を理解してもらうかといった色々な働きかけと、家族の努力が一体となり医師の相互の協力体制によって、普通では考えられないような経過があったというのが実態です。決して一般の人達の入院、手術といった普通のあり方では、このような重度の知的障害者に対する手術には至らないわけです。

社会福祉の奉仕精神で支えられてきた多くの大切な部分を制度が変更になったからといって切り捨ててはならないと思いますし、制度的にも見落としてはならないと感じるところです。

制度の流れとは別に、今後、ますます増えてくると思われる知的障害者の医療問題に対し、どの様に対応して行けるかが大きな課題として残るところです。

 

 〈精神科疾患者の治療〉

精神科診療は、平成18年度は41名で月1回(第2金曜日)の定期的な診察を、アッとホーム的な雰囲気のもと進められました。診療は糸井先生、看護婦、指導員、保護者と治療を受ける本人を含めた治療体制で進めていますが、結果としては昨年同様、大変良い方向に進んでいると言えます。

糸井先生の指導員に対する治療教育の内容が徹底し、心配される精神科疾患の問題も、驚くほどに落ち着いています。

相変わらず、時期的に不安定になる人もいますが、全体としては落ち着いています。勿論、現在医学では精神科疾患の多くは完治することは極めて少ないため、今後とも状態を把握しながら家族との協力の基に、病気と付き合って行く体制で取り組んで行きたいと思っています。

 

 〈歯科治療〉

歯科治療を受ける態度は最重度、重度といわれる知的障害を持つ人達でも、現在は何の問題も見られていません。ただ中には情緒不安定の人が居て、少し騒がしい場面もありますが、殆どは一般の人が待っているように静かに待つことが出来るようになりました。

重度知的障害の人達も定期的な歯科検診・治療の結果、歯科に関する問題点に関しては問題もなく順調に進んでいます。このような例は、現在の日本の中でも稀なことだといわれています。平成17年度同様に、歯痛でパニックになるような人は全くいませんでした。歯磨きは、起床時、朝食後、昼食後、夕食後、就寝前の5回おこなっています。食事後は一応、本人に磨かせた後に職員が再度ブラッシングで磨き直しをするといった方法をとっています。ブラッシング指導の大切さを今後とも基本に置きながら、口くう衛生に力をいれて行きたいと思っています。

今後、益々問題となることは、重度知的障害者の老齢化による入れ歯に関する問題点です。義歯の咬合がうまくいかなかったり、また、装着した義歯を、その日に外して捨ててしまうといった事への対応などです。

 

 〈健康維持・管理体制〉

処遇現場で活用しているパソコンの存在は大きなものです。色々なデータを活用しながら、昨年同様に入所者の健康管理を進めました。

また、健康管理は食生活がウエイトを占めるため栄養士・調理員と話し合いを献立委員会の時、あるいは病人が出て病人食が必要な場合などに、必要事項を確認し合いながら、相互の協力体制で健康管理を進めることができました。以下、健康維持管理内容を挙げてみたいと思います。

 

〔健康維持管理内容〕

1。日  実施項目

 

    投薬を必要とする園生

   統合失調症、癲癇発作のある人、その他必要に応じた場合の対処

 

2。週  実施項目

 

    全園生に対する検温。原則として毎週月曜日に実施する。

 

3。月  実施項目

 

    1)血圧測定(病気により週1回測定は30名)   2)体重測定         3)検尿      4)皮膚病検査    5)精神科医による月1回の検診

 

4。年  実施項目

 

1)心電図測定  

2)身長測定  

3)血液検査・エコー検査、その他〔健康診断の結果、医師の指示ある人のみ〕

  4 成人病検査 年2回    

  5 委託検診

    歯科治療……全園生対象    4月実施

    インフルエンザ予防接種……父兄の希望される園生

    精神薬内服者の副作用検査(血液検査(春、秋の2回)

  6)眼検診

  7)子宮癌検診  

 

5。不定期実施項目

    1)感冒流行時に検診  ……  12、1、2月時に実施

 

6。法定検査

    1)健康診断  ……  春・秋2回(前半は班別通院・後半は往診)

    2)胸部レントゲン検査  …… 1回前半期 65歳以上(県の指導より)

以上、計画の内容通りに実施できた。全ての結果は記録として残している。

 

 老齢化対策

脳梗塞になった園生(男性)の事後の経過もよく、通所の方法からだんだんと学園に復帰できる状態に向けて取り組む事ができました。

学園全体の大きな問題点としては、重度の知的障害を持つ人達には、なかなか入院でき辛いという現実はそのまま残っています。医療機関からの条件は学園職員の付き添いと保障問題が必ずあることです。入院問題については色々な問題点が今後とも生じると考えられます。

重度の知的障害者を受入れてもらえる専門病院の必要性を痛切に感じます。

何かあった場合に直ぐに入院させて貰えない、または入院不可という現実があります。保護者の方も頭の中では分かっておられるようですが、現実に我が子の問題として起きた場合は、慌てふためいた状態でどうして良いか分からなくなってしまうことが殆どです。

今までは、入所者個人の情報は人権尊重ということで、個人的な状態を他の保護者に知らせることは避けて来ましたが、緊急の場合に間に合わないことが生じるため、学園生活上で、出来るだけ危険性を避けなければならない必要な点に関しては、詳しく情報を公開し、自分達の子供の置かれている現実の状態を知って貰うことにで、保護者の協力を得て、更に具体的対応に力をいれて行きたいと考えています。

平成18年度も眼検診を行った結果、ダウン症候群の人達の白内障が多く、また、色素変性やDM網膜症や緑内障など起こってきましたので、今後も定期検を重要視して取り組んでいきます。

最重度知的障害者の人たちの健康状態を見ていますと、やはり、一般の人より遥かに加齢化は早いと感じます。

 

学園の健康管理体制

学園の健康管理体制に沿って実施した。

 

協力医療機関

下記の通りです

 内 科

 直方中央病院 

   内科院長

   所在地

   電話番号   

 

野田 晏宏

直方市感田3573−1

0949−26−2311

 魚住内科胃腸科医院

   院長

所在地

   電話番号   

 

魚住 浩

直方市頓野1919−4

0949−26−6610

外 科

 西尾外科医院 

   院長

   所在地

   電話番号   

 

西尾 禎一

直方市津田町9−39

0949−22−2684

 西田外科医院

   院長

   所在地

   電話番号   

 

西田 博美

直方市頓野野添2104−19

0949−28−1573

精 神 科

 回生病院 

   院長

  副院長

  所在地

   電話番号   

 

飯田 信夫

糸井 孝吉

福岡県宗像市朝町200−1

0940−33−3554

歯 科

 安河内歯科医院 

   院長

所在地

   電話番号   

 

安河内 半六

直方市日吉町3−12

0949−24−0577

眼 科

 阿部眼科 

   院長

   所在地

   電話番号   

 

阿部 健司

直方市溝堀2−3−13

0949−22−2953

皮膚科

おおもり皮膚科クリニック

   院長

   所在地

   電話番号   

 

大森 正樹

直方市感田井牟田1930−1

0949−26−6520

産婦人科

田中産婦人科クリニック

   院長 

   所在地

   電話番号   

 

田中 康司

直方市頓野1000−27

0949−26−8868

外科・耳鼻咽喉科

 岡村医院 

   院長

   所在地

   電話番号   

 

岡村 浩一郎

直方市頓野3816−3

0949−22−2683

その他、園内における医療対応の変化

◎結核検診について

入所者の結核検診が、平成8年度までは直方保健所委託でなされていましたが、直方保健所より地域医療機関にて検査を実施するようにとの指示があり、平成9年度からは民間医の魚住医院で実施するようになりました。

平成17年度も魚住医院で実施しました。(17年度より65歳以上のみ)

 

重度知的障害者の今後の医療的問題点を列記

・身辺自立のできていない、重度の知的障害を持つ人達を、入院させて貰える病院がほとんど無い。

・精神病院でさえも、なかなか入院させて貰えるところが少ない。

・入院に際し、保護者以外に学園職員の付き添いが必要になる。この場合、園内の職員体制が崩れ、園生全体が不安定になる。

・知的障害者を診察して貰える専門医が少ない。

 今後、ますます高齢化が進み、具体的に知的障害者の医療問題を、どの様に解決して行けばよいのか、またその様な体制ができるのか。

・当園としては、診療所と老人棟を併設した施設作りを考えているが、これをぜひとも具現化して行くつもりですが、行政面からの協力が無ければ実現しない。

 

                                                       2007.03.14 KY