--- 鷹取学園20周年資料 ---
最重度自閉的傾向を持った人の問題行動の軽減
平成12年4月1日
個人別ケースまとめ担当者
指導員 野 村 祐 治
1 問題であった具体的内容
@ 失便(漏便状態)
A 放尿(自室窓・訓練室横の園庭・歩行訓練中)
B徘徊
C睡眠状態の乱れ(不眠)
D水遊び(洗面所・足洗い場・調理室外・洗濯室・浴室など)
E異食(紙屑・タオルケットの糸・畳を毟ったもの・髪の毛)
F刺激行為(古釘・鉛筆・箒の穂・畳・髪の毛などで目・耳・鼻を刺激)
G衣類の頻繁な着替え
H自傷(手首を噛む・頭を拳で叩く、柱にぶつける・掻き毟り・顎を拳で叩く)
2 入所年月日
昭和56年4月1日入所(在園期間 19年0ヶ月)
3 ケース紹介(福岡県更生相談所判定書より)
@氏名 A・Tさん 男性
A生育歴
昭和36年3月6日生。正常分娩で母子共に異常なし。
授乳は母乳で離乳は12ヶ月、常食は1歳2ヶ月頃より。
発育状態は普通で首のすわりは3ヶ月。始歩・始語は12ヶ月。
執着の変化として、幼児期はマヨネーズの赤いキャップを握り締めて放さない・マッチ棒をつまんで音を楽しむ・紐を引っ張る・水道の水を出して手にかけるという行動があり、エスカレートして他の事に全く注意がいかなくなる。離れるのに大苦戦し10年かかる。この行為は現在も見られるが好きという程度で執着はしていない。また、自傷(手首を噛む・頭を拳で叩く・頭を柱にぶつける・顎を叩く)行為が見られていた。
B知的面
IQ(牛島式)21 MA(精神年齢)3歳1ヶ月 最重度
C身辺自立状況
食事は自立しているが咀嚼は悪い。以前はスプーンを使用していたが、箸を使用して摂取できるようになっている。(但し箸の持ち方はかなり自己流である)衣類の着脱もほぼ自立しているものの、前後の判断や表裏を間違える事がある。
排泄について排尿は一人で行えるが、排便は行って良いのか悪いのかといった感じ
で、こちらの指示を待っている状態。調子の良い時は自ら排泄に出向く事はあるが、
拭き取りは不充分。極度の便秘やそれを解消しようとして、水分を多量に摂り過ぎ
軟便となり失便も多い。大便が出るときは肛門から便が滲み出る状態で、絶えず漏
便している。(下着が何枚あっても足りない状態。)定時排泄指導を行おうとするが、
状況把握ができず観察より開始する。
D性格・傾向
自閉傾向でラポート不全、多動である。逆に家庭では寡動である。自分の定まった
場所に執着しその場を動こうとしない。会話は構成できないが教示に対する理解は
示す事がある。
言語は単語程度は出る。
消極的で気が小さく行動をためらう。規制に対しては反撥、威圧感・命令口調には
従う事があるが、恐れを感じるのでそのうち拒絶しはじめ不安定になる。前もって
約束(説明)をすると効果的。ほめるととても喜び次の行動がスムーズに行く。機
嫌が良い場面では職員に甘えてきたり、躁的状態となってダンス(ステップを踏む)
を踊る事もある。
E身体状況
栄養状態良・身長169cm・体重72kg(入所当時は90kgあり肥満体型)
身体的に異常はなし。
4 入所当時の状態
昭和56年4月に入所。失便が多く漏便状態。トイレに誘導しようとしても動かず、
トイレに誘導できても便座しようとしない状態が続く。1ヶ月ほど経ちようやく様式便
器に座るようになるが息む(排便しようとする)事はなし。5/10に初めてトイレでの排
便が見られる。排便に成功する事もあるが時間は一定ではなく、ほぼ毎日のように失便
があり、その時間帯もまちまちである。夏場になると水への執着が強く徘徊が多く見ら
れる。暑さ凌ぎの洗面所での水遊びが頻繁で真夜中でも浴室にて水遊びを行う。睡眠は
1日4時間もとればよい方であった。木の枝をちぎり目などを触れて楽しむ。窓からの
放尿があり悪臭をはなつ。不機嫌時の自傷行為も目立つ状態。
5 経過
○ 昭和57年度
昨年度は生活班での生活訓練が中心であったが、この年は農園芸班にも参加するよう
になる。相変わらず失便の多い状態ではあるが、時間帯が起床時間前後と夕食後に集中
しているといった傾向であった。(失便状況記録参照)しかし、失排便後には上機嫌と
なり、まれに流行歌の鼻歌も聴かれるといった面も見受けられている。彼の場合言語が
コミュニケーションとしての機能ではなく、歌う事、喋る事が遊び感覚として成立して
おり、全ての感覚は一つ一つバラバラで統合される事が少ない様に思われた。また、便
秘状態解消のため浣腸を行っているが、かなり苦労を要し男子職員が4人掛かりで行う
ような状況であった。この年も夏場には水遊びを毎日の日課のように行い、調理室の外
の水道を使用するようになる。蛇口を外し様子を見ると洗濯場・洗面所へと移行してい
る。同行為は涼しくなる時期まで続いている。ただし洗面となると別で、顔に水がかか
ると狂った様に暴れて拒否をする。洗面を覚えさせる為、男子職員2人がかりで顔を洗
わせる日が長く続いた。年度末には自慰行為が頻繁に見られている。
○ 昭和58年度
昨年度末から見られていた自慰行為が執着傾向となり12月近くまで続いている。ま
た、軟便状態の際の失便も続いている。担任への関わり(紙の匂いを嗅ぐ)が多くなり
コミュニケーションがある程度スムーズになる。しかし、便意がある時の意思表示まで
には至らない。
○ 昭和59年度
定時排泄の時間を5:30・12:40・18:00で実施。同時に便の状態と量の
把握を失排便のチェック表を用い状態把握に努めている。年度当初は失便の数が多く、
そのために精神的に影響を及ぼし便秘になる事も多かった。年度末には6:00の定時
排泄に落ち着き、自分からトイレに行くことがしばしば見られる。しかし、調子が悪い
時には失便してしまう。便秘については目立たなくなっており浣腸をしなくてはいけな
い程のものはなく、3〜4日出なくても水分補給や腹部マッサージ、運動(ジョギング)
などで便は出ている。
(担当別関連成果比較調査表参照)
(年間まとめ資料参照@)
(年間まとめ資料参照A)
○ 昭和60年度
失便している時は即洗い流してあげ、快・不快感を認知させるようにしている。また、
便秘気味の場合は腹部マッサージと排泄誘導を多くする事、便座の時間をゆっくり取る
ようにしている。結果、失便している時には宿直室に来たり、廊下に出てきて不快な表
情をして奇声をあげたりといった行動が見られる。便秘の時は5〜6分腹ばいにするこ
とを1日に3〜4回続け、かつ腹筋を刺激してやると夜間・起床時と続けて排便が見ら
れている。
4〜8月期に失便が多いのは、お姉さんの出産に伴ない本人への愛情不足と思われた。
秋頃より定時に排便という形から、自分からトイレに駆け込む傾向になってきている。
(年間まとめ参照)
○ 昭和61年度
昨年度同様に起床後と就寝前に定時排泄を実施。気候が安定してくる秋頃には就寝前
の排便が増えてきている。就寝前に排便がない時は早朝2〜3時の失便が多いが、宿直
室に知らせに来るという面が定着できてきている。真夜中にお尻を洗う為、「ありがと
う位は言おうね」との声掛けに、お礼の言葉が出ない為に右手を上げるようになる。
自傷については、原因が掴みきれてない状況であるが、早朝の起き出しの際は必ずと
いっていい位見られ、寝不足との関連とも考えられた。担任変更直後は前担任に依存し
がちであったが、年度の後半になると関わりも多く持てるようになり、鼻歌まじりに一
緒に歩くという態度も見られ、人間関係の幅の広がりが出てきている。
○ 昭和62年度
失便については就寝前と早朝に多い。便の量は朝の方が多いが早朝に起こして排泄を
促すとその後寝ないといった状態。自室窓からの放尿も早朝に多く、叱ってはいるもの
の改善には至らない。年度の後期に入り衣類を部屋中にバラまく行為が増えているが原
因は掴みきれていない。時間を持て余し遊び感覚的な行為だと思われた。
○ 昭和63年度
強い自傷行為が目立たなくなり、笑顔で過ごす事が多くなっている。逆に畳を毟って
耳・鼻をいじる行為が前年度より増えている。週末の帰省から学園に戻ることを全く嫌
がらず帰園がスムーズになっている。
○ 平成元年度
昨年度と比較すると全体的に落ち着いてきている。特に自傷行為は激減。しかし、畳
み毟りによる目・耳いじりは全く減っていない。放尿に関しても同様である。
○ 平成2年度
前年度同様に目・耳いじりは一年を通して行っているが、特に4月のクラス替え当初
に強い執着が見られた。また、情緒が安定している時は同行為を行っていても軽い声掛
けで自制できるが、不安定時には一度止めても再度行うといった強い執着が見られ、情
緒のバロメーターとして、本人と接する中でたいへん役に立っている。特に大きな変化
として自室での放尿行為が上げられるが、同行為は人の居ない時に行うために要注意で
あったが、昨年までのように居室が尿臭くなることも、窓のサンや犬走りに放尿後が残
っていることも見受けられなくなっている。
排泄についても4月当初は失便した際に介助にてシャワー処置を行うのだが、軽い声
掛けに対しても異常に怖がる行為が見られていた。抑圧的な態度での介助は避け、本人
がリラックスできるように、また、トイレに出向くことに違和感を無くすように楽しい
雰囲気づくりに努めた。年度の後半になると立ったまま息む行為が見られ出し、その時
に排泄を促すとかなり成功できるようになっている。(年間まとめ資料参照)
○ 平成3年度
本人の安定に伴ない、今までの様な問題行動の軽減を目指す目標ばかりではなく、生
活に密着した歯磨き・余暇の過ごし方・衣服の畳み方といった内容が上げられるように
なっている。余暇の過ごし方については、主に昼食後の一時を本人の好きな雑誌・遊具
玩具・教具などを利用して時間の構造化を図っている。これについては、盗食や目・耳
いじり・掻き毟りの防止も兼ねて実施し、歯磨き後には自主的に訓練室に向かうように
なると同時に、刺激行為はその間だけでも少なくなっている。その他、排泄については、
浴室トイレを使用する事が定着できている。
○ 平成4年度 検索
「全体的に問題行動だらけの状態である。刺激行為、盗食、放尿、奇声、掻き毟り、
徘徊、起き出し、失便などがあげられる。一つが少なくなると次に別の問題行動が出て
悪循環の状態」と当時の担当者の年間まとめにはこのような一節があった。まさに後戻
り現象の様ではあるが、実際同行為は入所後からずっと見受けられていた内容である。
表出している問題行動ばかりに着目するが故、水面下の根本的な要因に対して充分なア
プローチができていなかったものと推察される。(年間まとめ参照)
○ 平成5年度 検索
昨年度に比べて安定しているように思われる。躁的な状態や奇声を出すことも少なく
就寝状態もだいたい安定している。危険を感じる刺激行為(目・鼻いじり、爪擦り)は
頻繁であるが、行為をしている時は満足そうな表情をしている。夏場の水遊びは目立た
なかった。
年間まとめの「家庭とのつながり」という項目の中で、担当者と母親との指導に関す
る食い違いが記入されている。このように本人を取り巻く環境が全く逆の対応であった
という事は問題改善に大きな支障となっていた事が窺い知れる。(年間まとめ参照)
○ 平成6年度 検索
この年より私(野村)が担当となる。基本的な生活習慣が確立できていない為、先ず
は全面的に介助(フォロー中心)にて行い、場面に応じた行動が取れることを目標に上
げ、本人のできるような最初の段階から経験させるようにした。問題とされる行為は依
然として見られ、常に何かがあるといった状態ではあったが、注意や規制は極力避ける
ようにし、先ずは受容的な態度(共感)で接し、次に手伝ってあげ(事後のフォロー)
それから本人のできる内容を実践していく事を繰り返している。この一連の流れは失便
をした時のみでなく、その他問題とされる内容についても同様の対応を取り入れた。
(指導目標資料参照)
前記したように数々の問題は残っているものの、全体的にはたいへん落ち着いており、
その頻度も少なくなっている。何よりもこちらの話を聞くという態度も見られ出し、表
情に豊かさが見られ、以前の様な脅えや逃げ出すような行動がなく安心して生活が送れ
ている。特にケガの治療や爪切りもスムーズにさせてくれるようになり、拒否は目立た
なくなっている。
夏場の不眠については、情緒面の不安定さからくるというよりも、暑さや異食による
便秘状態が原因と考えた。
○ 平成7年度 検索
昨年度に引き続き担当も同室者も変更がなく、ホームにおいては本人が安心して生活
ができる環境が持てた事もあり、ホーム体制導入に伴なう日課の変更があったにも関わ
らず、特に大きな問題は見られてない。しかし、この年は機能班の訓練室が7月より新
しくなったり、班の担当者が入れ替わったりと環境の変化が大きく、9月頃までは落ち
着きに欠ける面が見られている。全体的に夏場の問題は見られていたが、環境に慣れる
に従って安定に向かい、指示通りの良さや表情の良さが多くの場面で見られるようにな
っている。
○ 平成8年度 検索
この年は同室者が変更し、今までの様に身の回りの事を何もかもしてもらえる指導性
のある園生ではなかったが、逆に本人のできる内容(シーツ交換・ルームキーピング時
の本人の役割分担)を充分に指導できた事と、クラスというグループ活動の意識もつい
てきた事で日課への離脱が殆ど見られなくなっており、甘えた面も少しではあるが矯正
できた年であった。問題行動に対しては、良い事と悪い事を本人にはっきりと口うるさ
くならない程度で伝え、注意のみではなく事後の対応(片付けや掃除)まで一緒に実施
し意識づけを図っている。結果として注意や声掛けなしでも悪い事をしたという意識が
見られるようになっており、職員の表情を覗って行動に移すといった良い意味での緊張
感を持つことができている。(資料 畳むしり写真)
○ 平成9年度 検索
担任に変更はなかったものの、今まで長い間2人部屋で生活していたのが久しぶりに
4人部屋という事で、今までとは違った行動が見られると思われたが、居室替えからし
ばらくは前の居室付近で過ごす事が多く落ち着かない状態は見られたものの、年間を通
して続かず柔軟に対応できる面も見られている。問題行動については、掻き毟り・異食・
刺激行為・畳むしりなどがあげられ常に何らかの行動が継続しているが、この年は畳む
しりが目立っている。しかし、日々処遇にあたっている職員にとって、たいへん喜ばし
い事があった年でもあった。帰省報告書に母親が記入された内容である。一般的に見れ
ば当たり前の事でほんの些細な内容かも知れないが、「ちょっとの指示でスボンを裏返
しできるようになりびっくりしています。毎日のくり返しでご苦労かけていることと思
いますが、37才にして…。」以下省略 (資料 帰省報告書参照)
○ 平成10年度 検索
担任・居室・同室者と変更がなく、特に不安定になる事はなかったものの、昨年から
目立っていた畳むしりはこの年も依然として続いている。防止策として本人の好むよう
な雑誌や玩具への移行を試みているが、これといって効果は見られていない。冬にはカ
ーペットを敷いているが、今度は他室の畳をむしっているような状態。
朝の会・夕べの団欒・シーツ交換時の本人の役割も定着できた事で、仲間意識も多く
の場面で見られ出し日課においての離脱が殆ど見られなくなっている。また、母親が入
院され帰省のリズムが変わったり、母親との関わり不足で不安定さが窺えていたが、大
きく崩れてしまう事はなく本人の成長を感じた年でもあった。
担当になってからの5年間、身辺面においても本人のできる内容から取り組ませ技術
面の向上は重視せず、楽しい雰囲気づくりと気分転換を常に心掛け、あくまでも本人に
負担を感じさせないように配慮した。全体的には年齢的なものもあり年々落ち着きが見
られているが、5年間という事で担当に対しての依存度が高くなり過ぎる感じでもあり、
今後のA・Tさんの成長を考えたり、人間関係の幅の更なる広がりや柔軟さといった面から考えると若干マイナスになってきているように感じられた。
○ 平成11年度 検索
久しぶりに担当の変更がある。年度当初はかなり戸惑いがあったようで、なかなか慣
れ親しみがなかったようであったが想像以上に早く解消できている。日課においても「掃
除機を持ってきて」と声掛けするとちゃんと宿直室横から持って来る事ができている。
問題行動である畳むしりの事後の対応(片付け)の成果であり、問題を問題としてだけ
捉えるのではなく、違った面での成長のきっかけになっていたというプラス思考が持て
るようになった。
家庭での生活とはまだまだ相違点が残っているが、学園生活においても様々な面での
成長を期待し、更なる援助を続けていく必要性を感じている。
6 改善点
@ 失便〜
現在も極度の便秘の際に、それを解消しようとして多量の水分(お茶・水)
を摂り過ぎて軟便状態になった時は見られているが、家庭のように母親にチ
リ紙を持って行って排便を知らせるまでには学園ではなっていないが、主に
起床後には自ら浴室トイレに出向き排便を行うまでに至っている。失敗した
際も以前の様に何枚もスボンやパンツを履き替えて不快を取り除くという行
動はなく、宿直室のドアを開けて知らせる(シャワー処置の催促)ことがで
きるようになっている。
A 放尿〜
現在も見られる行為ではあるが、睡眠状態が大きく影響する内容であり、寝
つきの悪い時や寒い日が続く冬期以外では目立たなくなってきており、起床
後に浴室トイレで排尿ができるようになっている。また、日中は排尿の時は
ホームトイレの小便器・訓練中は訓練棟のトイレで排尿する習慣がついてい
る。しかし、本人横着な面があり、解っていても訓練室の横の園庭で放尿し
たり、社会参加訓練中の外出時、体育・訓練中の園外歩行時に同行為は見ら
れている。
B 徘徊〜
特に宿直時間帯で一晩中眠らずホーム廊下を奇声を発しながら徘徊するとい
った事目立たなくなっている。園庭の徘徊や園外に出て行く事は殆どなくな
っている。
C 睡眠状態の乱れ〜
年齢的なことが大きな要因だと思われるが、年々安定の方向に向かっている。
季節の変り目や気候の悪い時には見られているが、これについても排泄に大
きく影響される内容であり、排泄(特に排便)が安定している場合は問題が
はなし。
D 水遊び〜
前記したように便秘傾向を解消する為、洗面所で水をがぶ飲みする時にコッ
プを使って服を濡らす事はあるものの、風呂場や足洗い場、調理室横の蛇口
などでの同行為は全く見られなくなっている。
E 異食〜
刺激行為(遊び)をした後の雑誌の切れ端や髪の毛、畳みを毟った穂を食べ
ている事は見られているが、タオルケット(寝具)の糸を引き抜いて食べる
ことはなくなっている。本人の分だけではなく同室者の分もタオルケットで
はなく綿毛布に変更したりという対応も行っているが、ひどい時には別室の
他園生の分を引っ張り出していた頃から見ると減少はしている。この件は遊
び的に行う事が多いが、便秘解消の為の手段として行っているとも考えられ
る。
F 刺激行為〜
訓練の園外歩行中や余暇時間の暇を持て余しているような場面では、まだま
だ見られる内容であるが、園庭を徘徊してわざわざ草木を拾ってくるような
場面は見られなくなっている。
G 衣類の頻繁な着替え〜
特に失便をした際や水遊びをして濡れた時など、不快な状態を取り除く手段
として目立っていた内容であるが、失便・水遊びの減少とともに現在では殆
ど見られなくなってきている。
H 自傷〜
不機嫌(不安定)時に拳で顎を叩いたり、特に夏場の虫刺され後を掻き毟る
ことは現在も見受けられているが、顔の形が変わるまで叩いたり、常時出血
をしているようなことは目立たなくなっている。また、手首を噛んだり、頭
を柱や壁にぶつけるような激しいものは全く見られなくなっている。
7 改善に至った要因
前記したようにA・Tさんの場合は問題とされる行動が多く、一つの問題が目立たな
くなると次の問題が目立ってくるといった様に、問題行動は完全に無くなってしまって
はいないというのが現状である。しかし、その中でも処遇を行う職員との人間関係が大
きく影響し、問題が減少することもあれば逆戻り現象で増加することもあるという状態
で、情緒安定が一番の課題となっている。また、排泄(特に便)の影響が大きく、便が
定期的に出ている時は良く、そうでない時は数々の問題行動が見られるというパターン
を持っている。そういった事も含め特に排泄という点に着目し、失便については定時排
泄を用い場所の明確化やリラックスして便座できる状況を設定した事も大きな要因では
あるが、失便したことで職員から叱られるのではなく、先ずは共感(受容的態度)→事
後のフォロー(なるべく早く気づいて不快状態を取除く)→実践(本人の負担にならな
い程度での片付けを経験させながら叱り、意識づけを図る)→評価(できた内容を大い
に誉める)という一連の流れをつくって、本人にも理解できた(受け入れられた)こと
が上げられる。この流れについては失便のみではなく、他の問題とされる行動について
も用いており、先ずは情緒の安定を第一に考えて実践してきた成果である。また、年齢
的なものもあるが、約20年間という学園での規則正しい生活のリズムやストレス発散
ができる訓練、仲間(園生)との人間関係、家庭の理解と協力が好影響を与えたことは
言うまでもない。
8 まとめ
「経験に優るものはない」先ずはこの言葉が浮かんでくる。親にとって子は宝のような
もので、余りに大切にしすぎて宝の持ち腐れと化してしまう。可愛がりすぎて未経験の
まま大人になっており、自分に対する思い込み(これしかできない)といった既成事実
が事を作り上げているといった状態であったA・Tさん。処遇に当たった職員は親でも
あり、指導者でもあるといったように様々な側面からアプローチが可能である。決して
諦めることなく、根気、のん気、元気で本人と向かい合うことの大切さを実感できたの
ではないだろうか。特に最重度で自閉的傾向を持った人は、それに対応する者が諦めの
心がどこかに浮んだ時にはその心が相手に映ってしまう。単純な方法でも何度も繰り返
し経験させる。努力の積み重ねが必ず実を結ぶときが来るという信念を忘れずに、ちょ
っとした変化を見逃さずに成長をサポートしてあげる事の大切さを痛感した。
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