--- 鷹取学園20周年資料 ---
最重度自閉症者への不適応改善事例
クラス内の安定、作業能力の開拓を中心に
平成12年度4月1日
個人別ケースまとめ担当者
指導員 本 田 康 治
1.問題であった具体的内容
@ 奇声や興奮
A 作業場からの離脱行為
2.入所年月日
昭和61年4月1日入所 (在園期間 14年)
3.ケース紹介(入所当時 福岡県精神薄弱者更生相談所判定)
@氏 名 U・A (男性) 生年月日 昭和42年6月14日生
A生育歴 出産時体重 3100g 始歩 1年1ヶ月 始語 なし 離乳 12カ月位
7歳 福岡県立直方養護学校 小学部入学
18歳 同校高等部卒業を卒業し鷹取学園入所
B知的面 (昭和61年2月18日)IQ 12(T-K式) MA 1歳10ヶ月
(平成 8年11月27日)IQ 15(全訂版田研・田中ビネー知能検査)
MA2歳8ヶ月
精神分裂病
C日常生活行動 食事、排泄、着脱衣などほぼ自立できている。その他、自分の持ち
物の整理がきちんとでき、部屋の掃除などについても上手にできる。
D身体状況 特に異常は認められない
E情緒面 向かい合うと非常に照れる。指示に対してまずそのまま模倣して,
見せる傾向があるが、指示理解度は低い。
Fコミュニケーション 発語なし 疎通性に乏しい 言われたことはある程度わかる
G病歴 特にないが、ジンマシンがでていた。
H保健・介護の面について 体調不調を訴えてこないため観察を要す。
4.入所当時の状態
性格的には大人しいが、言語を持たないためコミュニケーションがとりづらく、意思を通すことが難しかった。環境に馴染めず自分の意思が通らない場合、奇声をあげ興奮することがよくみられた。絶えず指示を受けないと行動できない状態であった。また、歩きながら急に奇声を発して周囲の人を驚かせることも度々あった。逆に指示がない状態が続くと興奮するといったことがよく見られた。
加えて、女性のような振る舞いをし、街でトイレに入るときは女性トイレに入り、必ず座って排尿をおこなっていた。
5.経過
昭和61年
クラス(高松)
・支持通りに動く素直さがあるが、発語がなく内面の欲求がつかみにくいため、興味関心 のあるものを見つけ、その方向を伸ばすようにする。
当初は洗濯物に関心を示し、乾きあがった洗濯物を自分から女子棟ディールームに取りに行き、また、各部屋に配布されそのままになっている洗濯カゴをすべて回収し、女子棟ディールームに戻している。そこで7月より紙工芸班のない日は、洗濯班に参加させるようにする。しかし洗濯物を干す作業がなくなると時間を持て余すため、9月末より紙工芸班のない日は手芸班に配属させてもらう。雑巾縫いから始めるが嫌いでない様子。畳、壁、窓ガラスなどを叩いて奇声をあげる興奮が、起床時、7:20〜7:30、朝の会時に多くみられている。また9:00、13:00など日課の場面の変わり目で、場面保持のような感じで興奮がみられている。
紙工芸班(花田)
・作業内容=あんでるせん手芸 (写真@)
最初に介助して覚えた仕事はだいたい一人でできる。集中度が高く、休憩の声かけをするまでおこなっている。その反面、作業中に自分の仕事が終わっても本人より次の仕事を求めてくることは少ない。技術的には未熟な面もあるが、かなり器用におこなえる。
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=60回(担当者日誌 指導日誌 宿直日誌より / 以下同じ)
畳、壁、窓ガラスを叩き、時には自傷を伴うなど、激しい「奇声」「興奮」が多い。
(日誌@)(日誌A)
昭和62年
クラス(高松)
・余暇の過ごし方の工夫
・発語の機会を持たせる
テレビゲームに関心を示すため余暇活動としておこなわせる。5月当初はコントローラーのレバーを適当に動かすのみだったが、朝起き抜けからテレビゲームに取りかかるほどで、7月頃にはかなり上達してくる。11月頃にテレビゲーム熱が冷めてくる。その他、ロングホームルーム時に絵を描かせてみる。細かな部分まで写生できるが、絵を描くことを積極的に楽しんでいるといった感じは受けられない。
ホームルームの司会や掃除の終わりの挨拶などを通じて発語の機会をもたせる。ホームルームの司会では「アー」と大きな声が出ていることが多かった。
本年度はかなり安定していた。体重も増加の一途。奇声や壁叩きもほとんどなし。シーツ交換の手伝いや毎日の掃除などもよくおこなている。掃除開始時、自発的に準備・開始ができる時と、職員を待っていることがある。それでも昨年度からみれば自発的に進めることがみられだしたことは変化である。
手芸班 AM(木村 江原)
・作業内容=におい袋(レース・リボン付け) スウェーデン刺繍
レース付けは雑になりがちになる為、最初は担当者がそばについて支持介助を要す。一ヶ月間ほどで問題なくできるようになる。リボン結びも最初は上手におこなえず本人もイライラしていたが、一週間ほどでほぼできるようになる。ただし、形がうまく整わないこともあり、職員の手直しを要した。作業のペースは速い。
スウェーデン刺繍については、担当者が指定した図案を一度説明すればすぐにおこなえる。ただし、自分から図案を決めて刺繍することはできない。また、糸がひきつり気味でその調節ができない。
紙工芸班PM(花田 田原)
・作業内容=あんでるせん手芸
レターセット・のし袋セット作り カレンダーのスタンプ押し
日々のノルマを大まかに決めて作業を実施する。作業の内容を一度覚えると早いペースで作業し、次第に雑になりミスが目立つようになってくる。そのことで注意を受けると興奮するということが多い。仕上げの確認や自分で形を調整することができずに、ただ同じ作業を繰り返すという傾向にある。
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=6回
記録上の回数は6回と昨年に比べ10分の1にまで激減している。記録にはないが作業中に注意を受けることによって興奮することが多かった。しかし激しい興奮は激減した。
(日誌B)(日誌C)
昭和63年
クラス(浜村クラス)
・本人の興味を引き出し、学園生活に潤いを持たせていく
絵、住所、文などの手本を示して書写をおこなわせる。熱中して書写し書き終えると担任へ見せにくる。新しい見本を提示すると、うれしそうにそれを受け取り再度書写する。
手芸班(江原)
・作業内容=あんでるせん手芸 スウェーデン刺繍 刺し子
あんでるせん手芸では、広告紙を丸めて作るくるくる棒作り(写真A)は問題ないが、それを編む際は縦芯の間隔を調整できないため、増し芯の際に支持を要す。この作業には少し飽きがみられだす。
スウェーデン刺繍には意欲的に取り組んでいる。図案は担当者で決め、配色の指示をすれば1人でできる。作業ペースが速く作業が雑になる所がある。また、糸が引きつり気味である。そのようなときには注意をおこなうが、聞き入れようとしない。
刺し子については、△など角のある図案では糸がひきつり上手にできないが、○の図案ではなんとかひきつらずにできる。
作業において訳がわからなくなるとパニックを起こし奇声をあげるばかりだったが、年度後半には自分からわからない旨を訴えてくるようになる。
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=0回
作業が次第に雑になるなど、作品の数を多くこなすことに気がとらわれている。そこへ作業に行き詰まってしまうとパニックを起こし奇声をあげるなど、「奇声」「興奮」はある。しかし生活面では安定している。
平成元年
クラス(浜村)
・意思の疎通が図れるように、発声の機会をもたせる。
朝の会や夕べの会など本人と関わることができる時間に、積極的に本人へ話し掛けるたり、号令の言葉などを一語づつ教えていった。4月当初は担任の顔を見ずに口を動かしているだけであったが、5月には担任の口の動きを見て真似しようとする態度が見られだす。正確な発声には結びつかなかったが、発声の練習を楽しんでおこなうこともあり、情緒面でよい影響を与えたように思われた。
手芸班AM(江原)
・作業内容=あんでるせん手芸 スウェーデン刺繍
あんでるせん手芸 広告紙を適当な大きさに切り丸めてくるくる棒を作り、それを編んで作る全工程を自分でおこなう。縦芯の間隔が開き過ぎたり狭過ぎたりするとまっすぐに編めないため、その点のみ注意が必要。
スウェーデン刺繍 図案の見本があればそれを見て刺繍できる。見本がない場合でも、1パターンだけ担当者がおこない、後は一度指示すれば本人でできる(どんな難しい模様でも可)。しかし、目が離れている場合は、引っ張り過ぎて糸が引きつってしまう。注意しても理解できないため目の詰まった模様をおこなわせるようにする。
軽作業2班PM(仲谷 波多野)
・作業内容=草木染めの絞り用運針 裂布ロープの縫い合わせ
午後のみの作業参加にあまり戸惑いはみられない。全体的に単純な縫い方でよいためスムーズに縫っている。しかし、作品に応じて針目の長さを変えることには、少し時間をかけて指導を要した。絞り用の運針については、全体的に針目が小さ過ぎ注意を要すがきれいに縫っている。ロープの縫い合わせについては、丈夫に縫うことを目的にさせるが理解できず糸の始末が不十分である。
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=4回
平成2年度
クラス(浜村)
・意思の疎通が図れるように、発声の機会をもたせる。
・絵を描かせたり文字の書写をおこなわせる。
朝の会や夕べの会、園周ランニングの後などに発声の練習をおこなう。「あ、あ、あ」が「あ〜」と伸ばして言えるようにはなるが、正確な言葉の発声には至らず。書写に関しては、正月帰省の際に何も見ずに「1990 正月」と書いたとのことで、両親が驚かれている。
軽作業2班AM(仲谷 藤延)
・作業内容=草木染めの絞り用運針
昨年度は午後の作業参加だったが、今年は午前中の作業参加となる。そのため2〜3日間は落ち着かない状態だったが、その後はスムーズに作業参加できている。絞り用運針については、全体的に縫い目が短過ぎるが、針目は均等の長さで糸の始末もできている。かがり、つまみも手本を見て上手にできている。全体的に作業ペースが速く、材料が足りなくなるときがあった。
手芸班PM(江原)
・作業内容=あんでるせん手芸 クロスステッチ刺繍
あんでるせん手芸はペース速くおこなえるが、間隔がうまくいかず失敗作もある。また、最後の仕上げ部分に行き詰まり進歩がみられないために、あんでるせん手芸については、この作業を卒業し、次の作業に変更させることにする。
クロスステッチ刺繍では、クロスステッチの方法・図案の指示の意味がすぐに理解できる。1ヶ月ほどで3〜4色を1度に指示しても間違いなくおこなえるようになる。作業ペースが速く、糸が引きつるなど雑な面も見られる(作品の仕上がりにあまり影響はない)。指摘しやり直しさせると嫌がる。
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=5回
平成3年度
クラス(浜村)
・発声の機会を多く持つ
・自由画製作
朝の会や夕べの会で発声の機会をもたせるが、正確な発声には至らず。
自由画製作に関しては、ロングホームルーム時や昼休みに自由画を描かせる。これまではほとんどの場合に手本が必要だったが、「絵を描いていいよ」の一声で、自由に絵を描くことができるようになる。
軽作業1班AM(白土 山内)
・作業内容=和紙作り
今年度より手芸班がなくなり、半日(AM)は軽作業1班で和紙作りに参加する。和紙すき、和紙作り共に全工程を本人におこなわせる。正確さに欠けるため細かい指示と確認を要すが、ほとんど自分で和紙作りができるようになる。好奇心旺盛のため指示がなくても自発的に作業を探そうとする態度が見られている。
4月当初より作業場から離脱し重度棟のトイレに行く行為が午前中だけでも3回ほど見られだす。1月に入って徐々に離脱の回数が減少し落ち着いてきている。(下線1)
軽作業2班PM(仲谷 安村)
・作業内容=草木染めの絞り用運針
本人がわかっている図案の縫い方は、本人にすべて任せておこなわせる。初めての内容については手本を見せるようにする。しかし、いつもしている図案についても縫い始めは必ず介助を求めてき、その間落ち着かない状態となる。縫い目は短く大変上手におこなえている。作業には意欲的に取り組めているが、4月より1時間の作業中にトイレへ1〜2回離脱するようになる。
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=11回
平成4年度 検索
クラス(浜村)
・発声の機会を多く持つ
・自由画製作
朝の会や夕べの会で発声の機会をもたせるが、正確な発声には至らず。
自由画製作に関しては、ロングホームルーム時や昼休み、担任の宿直中などに自由画を描かせる。昨年同様「絵を描いていいよ」の一声で、自由に絵を描くことができている。
軽作業1班AM(浜村 山内)
・作業内容=和紙作り
ちぎった牛乳パックをデジタル測量計で一回分の量を計る。それをミキサーに入れタイマーを使って一定の時間回し和紙液を作る。和紙すき一回分の量が入るボトルに注ぎ分ける。木枠に和紙液を入れ紙すきする(写真B)。以上の一連の作業を覚えおこなうことができるようになる。しかし細かい部分の丁寧さに欠けている。
軽作業2班PM(仲谷 三谷)
・作業内容=草木染めの絞り用運針 レターセット封筒型きり・中封筒糊付け
運針については、本人が既に経験している内容には、自力でおこなうことを基本としているが、縫い始めの一針を介助してやらないと取り掛かれず、指示のみでは奇声を発すことが多くなっている。
レターセット作りでは、型切りの際にずれがあることがある。また、糊付けの際には糊の加減にムラがある。しかしいずれも許容範囲で問題なし。
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=9回
平成5年度 検索
クラス(浜村)
・発声の機会を多く持つ
・自由画製作
朝の会や夕べの会で発声の機会をもたせるが、正確な発声には至らず。
自由画製作に関しては、ロングホームルーム時や昼休み、担任の宿直中などに自由画を描かせる。昨年までは「絵を描いていいよ」などの声かけをしていたが本年度は何も声かけしないでも絵を描いている。
軽作業1班AM(浜村 山内)
・作業内容=和紙作り
昨年度と同じ作業内容であるが、昨年度は和紙を一日に20枚作っていたが、本年度は30枚作るようになる。作業意欲が増し、作業場からの離脱がまったくなくなる。(下線2)
軽作業2班PM(仲谷 三谷)
・作業内容=草木染めの運針・絞り
運針では、自力で取り組めるよう、平縫い・巻き上げ・かがり縫いの技法を確実におこなえるよう指導する。経験のある図案については問題なくおこなえる。かがり縫いはやや複雑なため本人より指示を求めてくるので、その際は一針縫って手本を見せると以後は自力でおこなえる。大変きれいな針目である。
絞りでは、平縫いやかがり縫いしたものは引き締め絞りし、巻き上げは根元を絞って糸を巻き上げるという高度な内容を実施する。始めは手本を見せ、以後確認をするようにした。8月以降はまったく失敗せずにおこなえるようになる。麻の葉模様などの高度な絞りでもほぼ確実に絞れるようになるなど、技術の向上が見られる。
昨年度はトイレへの離脱が多かったが、作業の充実の為もあってか作業中に1回程度の離脱になる。(下線3)
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=3回
平成6年度 検索
クラス(白土)
・居室掃除
居室掃除に限らず食後のテーブル拭き、靴の洗濯などを毎日の生活の中で必要に応じて取り組ませる。指示に対して納得すればすぐにおこなうことができている。やり方が雑なことも多く、その際はやり直しをおこなわせるが拒否はなし。本人としては常に何か役割が欲しいようで、職員の行動を見たり、指示されておこなった仕事が気に入ったものについては、自分の仕事として習慣化する(ちり紙折り コップ洗い 布団干しなど)。
軽作業1班AM(浜村 松本)
・作業内容=和紙作り
昨年度と同じ内容に取り組む。和紙すきではまだムラがあるが、以前と比べれば担当者の指示を受け入れることができるようになっている。和紙の軽量でも時々確認を要す状態だが、支持を受け入れ修正することができるようになる。
軽作業2班PM(仲谷 三谷)
・作業内容=草木染めの運針・絞り 刺繍 パッチワーク
全体的に取り組みはよい。本年度は絞りに加えパッチワークや刺繍をおこなうことで作業に変化が出て意欲的に取り組めている。特に刺繍は家庭でも趣味としておこなっており(写真C)意欲的である。図案も一つ描いて渡すと同じ絵を真似して描き刺繍している。どんな図案でも細かくきれいに仕上げている。
パッチワークでは、針目がとてもきれいだが、その他の工程は介助が必要である。作業内容が運針のみになったことで飽きが見られだす。
トイレへの離脱については、昨年度よりも回数が減っている。(下線4)午前中は軽作業1班、午後は軽作業2班という日課が、本人の中でも定着しているようである。
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=18回
平成7年度 検索
クラス(原)
・余暇の充実を図る
・居室の掃除
刺繍などを趣味としている面があるため、余暇時間に雑巾縫いやぬり絵をおこなわせた。余暇中はディールームや居室でテレビを観ていることが多いが、担当者の宿直時に本人の負担にならないように配慮しながら雑巾縫いやぬり絵に誘ってみた。いずれにも喜んで取り組んでいる。雑巾縫いについては、夕食後の余暇時間に古くなったタオルを渡すと10枚程度縫っている。
和紙班AM(浜村 三宅 田畑)
・作業内容=良質な和紙作り(水抜き アイロン作業を含む)
水抜きについて、年度前期は担当者の配慮不足もあり和紙を覆う布を伸ばしきれない為、出来あがった和紙にシワや糸くずが入ったりして質の悪い和紙が多くできてしまう。後期に入り作業の各過程で指示することにより上手にできるようになる。せっかちな面が見られる為、ゆっくりと作業するよう指示を要している。
アイロン掛けについては、班の都合で時々おこなっているのだが、十分に乾くまでプレスできないことが多く、表面がはげている。
作業に集中することが楽しみになっているようで、時間の経過とともに表情が穏やかになっている。
軽作業2班PM(仲谷 三谷)
・作業内容=染色の各工程(@運針 A絞り B染色 C絞りほどき Dアイロンかけ)
@Aの運針および絞りは平縫い、巻き上げ、つまみ、かがりの技法を主におこなう。複雑な絞りについては、本人から指示を仰いでくるので部分的に介助をおこなう。しぼりについては引き締め絞りがが少々ゆるい状態。巻き上げは時々根元が絞れていないことがあり、その都度やり直しさせるとほぼ確実にできている。B染色においては、一定時間箸や手で混ぜ続ける必要があり、初めは途中で手を止めることが多いため指示や介助を要した。経験を積むことで現在は声かけすることでおこなえている。C絞りほどきは自力でおこなえるが、急いでほどこうとし布を破ることが続いたため、7月にこの工程は中止する。12月に再度おこなわせると以後は失敗が減っている。Dアイロンかけは、シワののばしかたが今一つで介助しながらおこなう。
作業内容が本人にとっては充実していたようで、トイレに離脱することがかなり減少している。(下線5)
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=27回
平成8年度 検索
クラス(本田)
・余暇の充実を図る
・居室掃除
肥満防止・気分転換のために夕べの会時に園周の散歩を計画した。しかし時間の都合でほとんど実施できなかった。ちり紙折の手伝いを喜んでおこなうため、ちり紙が不足したときに職員と一緒におこなうようにさせる。ちり紙を見ると木製のちり紙を入れるケースを走って取りにいくなどやる気を見せている。また団欒時に使用したコップを洗うことや、布団干しなども自発的におこなっている。ただし、コップを早く洗いたい為に、皆がゆっくりお茶を飲んでいると奇声をあげることがある。
週に1回日課として居室掃除をする時間が設定されているが、その時間に大がかりに掃除させるようにした。決められた日課にはきちんと従うため、居室内のソファーやタンスを廊下に出してから、掃き掃除・雑巾がけをおこなうことにスムーズに取り組めている。すぐに1人でもおこなうようになる。
和紙班AM(三宅 椎木)
・作業内容=良質な和紙作り (スタンプ押し 値札貼り を含む)
昨年同様、薄い布を和紙にかける際にシワを確認するよう指示されても、作業始めはよいが次第に確認しなくなったり、ごみを取り除かないようになる傾向が見られる。その為いつも仕上がり具合を確認する必要があった。和紙をたくさん作ることより、丁寧に作業することの大切さを頻繁に伝えるようにした。昨年度に比べて、若干の失敗作はあるものの良質の和紙を多く作ることができるようになる。
本年度から石印でのスタンプ押しとラベラーを使用しての値札貼りもおこなった。スタンプの上下を間違うことなく、朱肉の付け方も適度で問題なくおこなえている。押す位置については和紙一枚一枚異なるため指示を要している。値札貼りについてはラベラーの値段を設定しておけば、貼る位置・枚数ともに正確におこなえている。これらの作業では本人の器用さが発揮できるようで、大変楽しんでおこなえていた。
作業にやりがいを持って取り組んでいるが、ゆっくり自分のペースで作業している園生に奇声をあげることで、せかして負担をかけることが見られている。
軽作業2班PM(仲谷 河上)
・作業内容=染色の各工程(@運針 A絞り B染色 C絞りほどき Dアイロンかけ)
C絞り解きは、昨年度布を切って失敗することが多かったが、本年度はまったく失敗がなくなる。Dアイロンかけは大変丁寧におこなっているが、丁寧過ぎて不必要な箇所もかけてしまい、絞りの自然なシワを意図的に残すことができない。
作業内容が本人に合っており、充実しているためか楽しく作業をおこなっている。トイレへの離脱がほとんど見られなくなった。(下線6) (写真D)
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=43回
成9年度 検索
クラス(本田)
・余暇の充実を図る
・居室掃除
担任の宿直時に手のすいた時間を利用してビーズ通しをおこなわせてみた。準備段階から本人が興味をもって見にくるなど、取り組みも大変スムーズだった。時間の都合上、1回に3本程度が限度であった。また、時間が十分にとれないこともあり、年間に20本程度と余暇利用の取り組みとしては不十分だった。
居室掃除に関しては、週に一度大がかりな掃除を自発的におこなっている。1人でもおこなえるが、担任との関わりを増やす為に、担任も本人と一緒に掃除をおこなった。雑巾がけの際に力を入れて拭くよう指示を要している。
和紙班(三宅 椎木)
・作業内容=良質な和紙作り
本年度は@切った紙を洗濯機に入れる Aその紙を脱水機にかけた後、金槌でたたく B計量してミキサーにかける C和紙すきをおこなう、それぞれの工程を担当者が確認しながらも手を貸さないで本人に取り組ませた。紙の原料を金槌でたたく時間と、ミキサーにかける時間を十分に取らないため、タイマーを使用させてベルが鳴るまで続けさせることでおこなえるようになる。しかし金槌でたたく時間が15分と長いため、タイマーのベルが鳴るまでおこなうことを時々声かけしないと、早めに次の工程へ行ってしまい目の粗い和紙が仕上がる結果となってしまう。
本年度は全体的に和紙作りの工程が変わり、作業が新鮮だったためか作業中に笑顔が多く見られた。和紙にアイロンをかける作業をしているH・T君が持ち場を離れただけで奇声をあげていた昨年度とは違って、作業に集中できている。
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=44回
平成10年度 検索
クラス(本田)
・余暇の充実
・居室掃除
クラス担任の宿直時に手のすいた時間を利用してビーズのれん作りをおこなわせる予定だったが、時間の都合で取り組ませることができなかった。ホームのちり紙折りや焼却炉へのゴミ捨てなどはすすんでおこなうため、担当者と一緒におこなうようにした。うれしそうな声を出しているため、楽しみながらおこなっているようである。
布団の上げ下げ、シーツ交換、ルームキーピング時の居室掃除など、学園の決められた日課へは自発的に取り組めている。シーツ交換では、同室者の分まで交換したり、皆が出したシーツを職員と一緒にたたんだりするほどである。しかし金曜日の団らん時にも居室掃除を担任と一緒におこなうようにしてみるが、それには拒否的なことが多かった。
和紙班(原 三宅)
・作業内容=良質な和紙作り
和紙の原料として牛乳パックの他に楮・三椏・パルプが加わったことで若干作業内容が変更となるが、問題なく取り組めている。和紙すきの際にすいた和紙の厚さが一定とならない問題がでてきたが、和紙すきの枠に印をつけ、そこまで和紙液を入れさせることで解決する。
本人が何をしてよいかわからないときに奇声をあげることがあり、常に何かに取り組むことで安定している。
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=25回
平成11年度 検索
クラス(本田)
・余暇の充実
・居室掃除
昨年度の社会参加訓練で買ったブロックで遊ぶよう勧めるが、ほとんど興味をしめさなかった。自宅で趣味として刺繍をしているとのことで、自宅にある裁縫道具を学園に持ってきて頂くよう保護者に依頼するが、本人が嫌がるとのことだった。余暇中はディールームでテレビを観ていることが多い。
昨年同様、金曜日の団らん時が居室掃除をおこなう日であると本人と決めていたが、あまりのる気ではなかった。団らん時はお茶の準備や片付け、その後ディールームでテレビを観るというのが日課になっているようである。無理に掃除させることは避けた。
和紙班(三宅 高宮)
・作業内容=良質な和紙作り(和紙すきに重点を置いて)
和紙の原料として牛乳パックの他に楮・三椏・パルプを混ぜた和紙葉書や和紙カード作りをおこなう。昨年度は和紙作りの半分以上の工程を担当していたが、本年度は和紙すきに重点を置いて作業に取り組ませる。一連の流れ、@木枠・布のセット A和紙すき B布をかぶせ板で挟むと言う流れを、指示がなくても取り組めている。和紙をすいた際に木枠を縦横にゆらして和紙の厚さを均等にする技術に欠けている。しかし、和紙をすいた後担当者へ和紙の厚さが適当か確認を求めてくることがあり、均一にしようとする意欲は伺える。
本人の中で次の作業が不明確なときに、何をしてよいかわからず奇声をあげることがあるが、和紙すき工程に集中させることで安定している。
※ 年間の「奇声」「興奮」記録回数=11回
6.改善点
@ 奇声や興奮
畳、壁、窓ガラスなどを叩いて奇声をあげる激しい興奮は入所した翌年(昭和62)に ほとんどなくなる(グラフ1参照)。平成6年度より再度増加しているのは、平成4年度にパソコン日誌システムが導入されたことをきっかけに、園生の行動を詳細に記録するようになったためと思われる。本人の場合、特に問題ない小さい奇声を出した場合でも記録と
して残されるようになったためと思われる(検索資料@)。
グラフ1
A 作業場からの離脱
平成3年度4月当初から始まった作業場からの離脱行為(作業場から勝手にトイレ
へ行く)が、半日の作業時間に1〜3回ほど見られるようになる。しかし、軽作業1
班(現在の和紙班)では翌年の平成5年に、軽作業2班(現在の染色班)では平成8
年度になくなる。(「5.経過」内の下線1〜6参照)
7.改善に至った理由
@奇声や興奮
激しい奇声や興奮の理由として、本学園へ入所という環境の変化があげられる。知らない人たちの中で、言葉を持たず、日課の流れや何をしてよいのかがわからない環境に置かれ、本人の戸惑いは大きかったと思われる。日々の生活の中で新しい環境へ次第に馴染んでいったと思われるが、それだけではなく、一日のなかで大きな部分を占める作業の充実が大切であった。男性ではあるが、もともと手先が器用という作業能力を持っていることに目をつけ、その能力を手芸や裁縫作業で十分に発揮させてやるという職員の試みが大きなきっかけとなり、女性向の作業であったが本人にやりがいを持たせたことは大きな要因だと思う。
A作業場からの離脱行為
軽作業1班の場合、平成4年度より牛乳パックを原料とした和紙作り作業をおこなっている。単調な作業ではなく、ある程度手先の器用さを必要とし作業行程も多い作業が、本人の能力に合っていた。この作業を2年間続けることにより、作業技術の腕が上がり一層作業にやりがいを感じるようになったためではと考えられる。
軽作業2班についても同様、染色作業(運針 絞り 染色 絞りほどき アイロンかけ)が上達し、質のよい作品をたくさん作ることができるようになったことがやりがいになったためと考えられる。
8.まとめ
今回のケースまとめを通じて、彼が当園に入所して以来14年間の歴史に触れることができた。私は平成8〜11年度までの4年間本人の担任として関わってきたが、その時にこのまとめをしておけばよかったと思っている。先輩指導員の方々の努力と工夫、そして彼が一生懸命に取り組んできたことをもっと早く知ることができたなら、もう少し彼にふさわしい関わりができていたのではと思われて仕方がない。
しかし、これからどのような方向で処遇を進めていけばよいのか、おぼろげながら見えてきたと思う。父親の死と母の死を乗り越え、大人として生きなければならない状況もつかめている。今後は学園での生活が彼にとって大切な場となってくるであろう。ここでは「楽しい生活、楽しい人生」をテーマに処遇が進められていくが、何かをできるようにさせるのではなく、持っている能力をいかにして発揮させるかという視点から園生と関わっていきたいと思っている。
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