--- 鷹取学園20周年資料 ---


    強いこだわり、破損行為を持つAさんに対する処遇事例
                             平成12年4月1日
                             個人別ケースまとめ担当者
                             統括指導部次長 服 部 年 春

1. ]問題であった具体的内容  
@こだわり(ペン、ノート等の収集癖)
A破損行為(ガラスその他器物)
B無断外出
2. 入所年月日
 昭和56年4月1日入所 (在園期間 20年)
3. ケース紹介(福岡県更生相談所判定)
@氏名〜A・Hさん 男性 昭和39年5月1日生まれ 35歳 
A生育歴〜出産時 難産(2,600g 仮死状態)  始歩2歳 始語1歳  離乳1歳
B知的面〜(昭和56年4月)I・Q16(S−B式) M・A 2歳6ヶ月 
 4歳の時に九州大学小児科より、精神遅滞との診断を受ける。   
  (平成12年3月現在) I・Q19(愛研式) M・A 3歳  
C日常生活行動〜着脱、洗面、排泄、入浴等は介助を要する。嚥下がうまくできないため、注意が     
       必要である。
D身体状況〜見た目は特に目立たないが、歩行の際はかなり左右に身体が揺れる。左肩を脱臼し、
     手術にて骨を付けている。
E情緒面〜騒がしい環境の中で、突然興奮とガラスを割る、器物を投げる等の破壊行為が見られる。
    人が注意を受けるのを見ても自分が注意を受けているように勘違いし、怒る事もしばしば 
    である。しかし、ここ数年は激減し、おとなしい日々が続いている。
Fコミュニケーション
 言語はあり、簡単な内容ならある程度は理解できる。
 対人関係については、特定の友人、職員と関わりを強く好む傾向がある。
G病歴〜特に大きな病気はしていない。
H保健・介護の面について
 毎食後にてんかん薬と精神安定剤を服用中。
 平成6年度に左肘の脱臼で手術をしている。

4. 入所当時の状態
  指導訓練の方針
 ガラス割りが頻繁であり、とにかくガラスで手首を切って下手をすると命に関わる為とそのために周囲の人にも破片が飛んだりして、思わぬ怪我をしないとも限らず、止めさせようという話しになるが、その方法で悩む日々が続いている。1年間は本人にもわかるように言い聞かせ、止めさせるという事を目標にしていたが、ガラスを叩いて割る時は常に興奮しており、言ってもわかるような状態ではなく、注意に対して全く聞く耳を持たず、逆に注意に対して怒るような状態で、結局効果が殆どなく、対処療法として正解だったのかどうかは疑問であるが、ガラスを叩いて割った場合は職員が両手を掴む、その後はガラスを叩きそうになると代わりにすぐ隣の壁を叩くというように変化してきた。
 ペンへの執着がひどく、常に探し回っては持ち出すという行為が続いている。それに関連して以前通学していた、直方養護学校への無断外出も再三見られ、迎えに行くということも続いている。   
 
5.経 過
入所以前の直方養護学校在学中から興奮してガラスを手で叩き割るという行為が続く為、寄宿舎から通学に変っているほどである。
 入所当時より、事務室、事務倉庫、職員室、各作業場、各居室とペンのありそうな所はどこ
にでも行って、物色するという状態で、隣接する養護学校にも早朝あるいは夕食後に1人で行き、各教室や職員室に進入し、ペンを探し回っている所を用務員さんに見つかり、電話がかかって迎えに行くという事が続いている。
 園生同士の言い争いや職員の注意にすぐに怒り出し、ガラスを叩く壁を叩く等の行為が頻繁で、ざわざわした雰囲気の中では落ち着けない状態が続き、あちらこちらのガラスを割る、壁を叩いて穴を空けるという行動が頻繁に見られていた。
 ペンへのこだわりもかなりつよいのものがあり、当時は体重もかなり少なく、今では考えら
 れないような陶芸班の壁をよじ登ってペンをとったり、予備のマスターキーで事務倉庫等に入っ
 てはペンをとるため、一時期は職員の机の上にボールペンが全くない状態も続いている。ペンを 
 とるために再三無断外出し、そのたびに職員が迎えに行くという事も見られている。

昭和56年度  (担当 浜村)
7月22日  夕べの余暇中○○くんに悪ふざけをされ、八つ当たりの対象がなく、DRの 
      テレビを落として壊している。(手書きケース記録 資料1)
8月7日  修理より戻ったばかりのテレビを再度引き倒し、ブラウン管より火が吹き出し、壊して
      しまっている。 (手書きケース記録 資料2)                       
9月29日  ペンを取ろうとして、事務室のガラスを叩き割る。(手書きケース記録 資料3) 10月4日  13:10ガラスの入っていない事務室の窓枠から進入し、物色している所を職員に 
      見つかり注意を受けるが、30分後に再度事務室に入っている。
                            (手書きケース記録 資料3)        11月30日  何処からかラッションペンを10本取ってきて、自室の窓より捨てている。
                             (手書きケース記録 資料4)
 昭和57年度  (担当 高松)
3月10日  7:50予備のマスターキーで事務倉庫を開け、鉛筆を5本取っている。
                            (手書きケース記録 資料5) 3月13日  直方養護学校にペンを探しに行く行為がある。(手書きケース記録 資料6)
7月11日  12:00前男子DRのガラスに椅子を投げつけて割る。原因は不明。
                            (手書きケース記録 資料7)
昭和58年度  (担当 服部)
 1月16日 1日に2度隣接する養護学校にボールペン欲しさの無断外出がある。
                             (手書きケース記録 資料8) 
 1月22日 11:20隣接する養護学校の事務室に入り、ボールペンを10本とっている。 
                             (手書きケース記録 資料9) 昭和59年度  (担当 服部)
4月8日  2m30cm程もある陶芸班の釜場の壁をよじ登って進入し、陶芸班のボールペンを
     取っている。(手書きケース記録 資料10)
9月は毎日のようにボールペンとりが見られている。 (手書きケース記録 資料11)      
10月2日  18:50男子棟10号室の入り口のガラスを箒で叩き割っている。
                           (手書きケース記録 資料12) 3月19日  20:20男子ディルームのガラスを割っている。(手書きケース記録 資料13)    
※ なぜこだわりの対象がペンなのか、本人に聞いたり、家族に聞いたりするが、結局わからないままである。ペンについては、全て芯を抜き、ペン本体と芯を抜いて曲げてしまい、居室の窓から捨てる状態で、一度本人さんの手にかかったら2度と使い物にならない状態である。最近はめっきり減ったものの、壊してしまう事には変りはない。
※ ガラス割りについても、養護学校の小学部の時からであり、これも何故ガラスなのか理由はわからないままである。
 学園でのガラス割りについては、昭和60年まで毎年3〜4枚確実に割っている。以後平成1年、平成5年に1度ずつ見られているが、その後は影をひそめている。これについては記録に残っている分についてのみであり、学園でスクールタフライトとガラスに記してある分については、殆ど荒木君が割ったものと考えて間違いはない。

昭和60年度 担任(服部)
 6月15日  16:35直方養護学校に無断外出している。 (ケース記録 資料14)
 9月以降ペン取りについては、かなり減少し、2月に1度あるかないかである。反面ノートに執着することが見られ出し、入所者や職員のノートを見つけては破るという行為が頻繁に見られている。(ケース記録 資料15) 
昭和61年度 担任(藤本)
  ノート、ペンへの執着は時々見られているが、便秘がちな時にそういうこだわりが多く、ノー  
 トやペンが貰えなかったりすると、引き出しの衣類を全てクシャクシャにしてしまう行動が見ら
 れだしている。(,年間まとめ 資料16)

昭和62年度 担任(藤本)
  ノート、ペンの執着が相変わらずであり、日にちを決めて担当職員か渡しているが、渡したも
 のがあるのに、他の物を探し出し、破って捨てるという行為が再三見られている。
                             (手書きケース記録 資料17) 昭和63年度 担任 (白土)
  ノート破りは何か不満があってのことではないかと推測し、できるだけ受容という形で接し、
 担当職員が宿直の際は、家庭に電話をしてあげたりしていたが、逆に家に帰りたいという欲求が
 つのり、甘えがひどくなっている。ノート破り、ペン探しは相変わらず時々あっている。
                             (ケース記録 資料18)
平成1年度 担任(立木)
  本年度はペン取りはかなり減少している。しかし、ちょっとした指示や、ざわつきに興奮し、
 壁や戸を叩く行為やガラスを割る行為が見られている。(,年間まとめ 資料19)
                          (手書きケース記録 資料20)
平成2年度 担任(立木)
  同室者が面倒見のよい○○さんとなる。ペンやノートの執着は相変わらずである。ノートやペ 
 ンをとって壊したり、破いたりという行為も頻繁に見られている。(ケース記録 資料21)  
平成3年度 担任(服部)
  ペン取りは減少し、殆ど見られないと思っていたが、職員が気づかないだけであったというこ
 とを思い知らされる。時々大量のペンやキャップが押し入れの上の天袋から出てきている。これ
 は手前に置いておくと、すぐに見つかって注意を受けるからとの本人の考えで、スバリそれが正
 解だったわけである。ここ数年はホームの溝掃除の際は、ペンの折れた物とキャップの掃除をし
 ているだけのようである。(,年間まとめ 資料22) (手書きケース記録 資料23)
平成4年度 担任(服部)
 ペンとりは減少傾向にある。 
今年度も同室者は○○さんである。7月に1度ボールペンをとろうして見つかり、激し
 くなじられたため、それ以後は2度と手を出さないようである。
  他の入所者の人が職員から注意を受けたり、騒がしい中ではなぜか怒り出し、箸を噛んだり、 
 右手を振り上げる行為が目立っている。(年間まとめ 資料24) (検索資料36) 検索

平成5年度 担任(服部)
  ペンとりは8月に1度作業場で見られただけで、その他の報告は受けていない。職員室、事務室への出入りを禁止しているためとも思われる。器物の破損にしていも激減しており、玩具等は長い期間はもたないものの、1月は形が残っている状態になってきている。
 Aくんがすぐに怒る為、特に3の入所者の人がそれを面白がって、再三からかい、それに対して怒って、自分の頭を叩いたり、箸を噛んだりする行為が見られている。(検索資料37) 検索
                              (年間まとめ 資料25)
平成6年度 担任(服部)
 7月7日  重度棟トイレのガラスを割り、自身も少し怪我をしている。 
 同室の○○さんとは引き続き一緒であるが、相性はよいのか悪いのか、特別問題はないからよいのであろう。少し注意を受けただけで怒り出すAさんも「はい」と全く反抗しようとはしない。
 騒々しい中での急な怒り出しは再三見られ、特に食事の際が顕著で、隣に座っている○○さんは八つ当たりで叩かれ、迷惑なものである。便のついたパンツを引き出しにしまう事が再三見られて 
いる。
  9月末に左肘の脱臼で3ヶ月の間、入院・自宅療養ということになっている。 検索 
                              (年間まとめ 資料26)
平成7年度 担任(服部)
  ペンに対する執着はかなり減少しているが、人の物を取るという事は皆無ではない。それにラ  
 ッションペンで畳や布団、衣服を汚すこともここ数年度々見られている。本人が欲しがるからと
 ペンを渡してもキャップをつなげて棒状にし、本体は窓から捨てる状態であり、3日間形があれ
 ばよい方であり、渡せない状態である。検索 (検索資料 38)    食堂で周囲が騒がしい状況の中だと、怒り出して両手を振り上げて、隣の席に座っている入所
 者の人を叩く行為が再三あっている。昨年の左肘の脱臼に続き、左肩の脱臼が見られるようにな 
 る。(年間まとめ 資料27)   
平成8年度(大西)
  担当が初めて女性の職員となる。甘えが目立ち始め職員室や他の入所者の人の居室に入ってペ 
 ンを取る行為が度々見られ、布団や畳、衣服にインクで汚してしまうことが頻繁になり、飽きる
 と捨ててしまうという状態である。注意を受けると手を噛む自傷行為が見られ始める。
  周囲の騒がしさに反応して、拳を振り上げる行為も頻繁に見られている。ただ、横に職員がつ
 いているときは゛だめ゛と注意をすれば、「はい」とおとなしくなる状態である。
  入浴の際、周囲の騒がしさ?に反応し、壁を叩いて左肩の脱臼、発作の時に脱臼が見られだし、
 通院が多くなる。(宿直日誌 資料2829・30)(検索資料 39) 検索
  3月13日  ラッションペンとボールペン合せて50本天袋から出てきている。いずれも折
        ったり、曲げたりと使い物にならない状態である。
                              (年間まとめ 資料31)
平成9年度 担任(服部)
  女性の職員が宿直の際は、甘えがちで入所者の大声に拳を振り回す癇癪行為が再三見られてい 
 る。食事の際は○○さんの「あ、あっ」という大きな声に「また言いよう」と怒る事がたびだひ
 で、箸を噛んだり、拳を振り上げたりという行動が再三見られている。(年間まとめ 資料32)
  (宿直日誌・34・35・36)(検索資料4041) 検索
平成10年度 担任(谷口)
  昼食時に食堂のざわつきに反応し、怒って壁を叩き、拳大の穴を開けてしまっている。しかし、
 注意の聞き分けは随分とよくなっており、更に興奮するということは見られず、成長の跡がうか  
 がえる。ペンへのこだわりは減少してきてはいるが、毎日のように職員室を覗きに来たり、居室
 をウロウロしたりするため、本人にペンを渡すが、納得せず、すぐに捨ててしまうようなこともあっ
 ている。(検索資料 42・43)  検索  
 7月2日朝食後、陶芸室前で転倒し、積み上げてあったテストピースで顔面を打ちつけ、7針
縫合している。歩行の際にバランスが悪いのと、ホームまで近道をしようとしたためである。
                               (年間まとめ 資料33)
平成11年度 担任(小柳) 検索
  担当は女性の職員である。担当よりペンを時々もらっているが、違う物が欲しいような時は、
 朝・夕と職員室を覗きにきている。隙あらば入ろうとしているが、注意にて素直に職員室を出て
 行くようになっている。それでもたまにではあるが、何処からかペンを持ってきている事がある。
 しかし、殆どなく、周囲のざわつきにも激しく興奮するという事も殆ど見られなくなっており、
 ようやく落着いた学園生活を送れるようになった今日この頃である。(年間まとめ 資料34)  (検索資料 4445)  6. 改善点
@ 無断外出
入所後2年間はかなりの回数を数えていたが、昭和61年より見られなくなっている。
A ガラス割り
 平成7年より見られなくなっているが、ガラスの代わりに箸を折る。ハブラシを折る等の破損行為が現在も時々見られている。
B こだわり(ペンへの執着)
 入所当時から見れば激減しているが、全くなくなっている状態ではないものの、本人に渡しておけば大体満足できるという状態にまでなっている。


7. 改善に至った要因
@ ペンへの執着
  長年続いたペンへのこだわりをなくすということは難しく、かといって本人の要求どおりにペ 
 ンを渡すという事を続ければ、なくなれば誰かが渡してくれるということが当たり前の状態にな
 り、けじめがつかなくなるため、本人に懇々と言い聞かせると言う事を続けている。本人からす
 れば半分は納得しているが、納得できない面も半分あったであろうと推測されるが、今気強く言
 い聞かせ、「うん」と本人が言うまで話しをしている。それに伴い完全にペンをとってしまうと
 いうのも逆に問題行動を引き起こしかねないため、今日は1本、今日は2本というように本人
 に持たせ、壊したら今日はもう渡せない、ということを本人に納得させている。段々それが身に
 ついてきたようで、近年は事務室に入ってペンをとると言う行為は見られず、職員室の職員の机
 の上のボールペンやマジックもそのままにある状態で、数年前ならば考えもおぼつかないほどで
 ある。

A ガラス割りについて
 当初のガラスを割ったら両手を掴む、更にガラスに手がいきそうであったら、壁を叩かせるということの繰り返しが成果があったようである。怒った場合は本人の口から「ごめんなさい」という言葉が聞かれるまで、側にいて言い聞かせるという事を続けている。一つは注意をしただけで、その場を離れると再度ガラスに手がいくためである。

B 無断外出について
 無断外出については、本人も当初から「いけないこと」という認識はあったようである。
その都度の説得を続けた事で成果があったように考えられる。

まとめ
 当初は些細なことで怒って、手を振り上げたり、ガラスを割ったりと暴力行為も頻繁で、ボールペンをとるために無断外出も再三であったが、徐々に減少している。その一因として、職員とのラポートの問題もあるように感じられる。常に自分を見てくれているという安心感が徐々に安定をもたらしたように思われる。てんかん気質でこだわりがあり、一つのものにこだわりだしたら、なかなかとれない状態であるものの、人間に対してもそうした傾向があり、現在も同じ職員にしかいかない傾向が強いが、本人にとってみれば家族のような捕え方をしていると思われる。学園が開所して、担任が変るものの、私(服部)は本人と関わりを持っていないわけではなく、副担任としての関わりを含めると15年間A・Hさんの担当と長いわけであるが、ペンへの執着はかなり減少し、怒り出してガラスを割るという行為は皆無に等しいまでに落ち着いている。こういうこだわりの強い人に対しては、担当の職員をあまり代えずに、継続した指導をした方が望ましいように思えてならない。最後に問題行動がいかに減少したかをグラフにて表してみる。(グラフ2)
                        



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