--- 鷹取学園20周年資料 ---
施設不適応行動を起こす人への対応
平成12年4月1日
個人別ケースまとめ担当者
指導員 田 畑 亜 美
1.問題であった具体的内容
@破損行為(傘焼き、破衣)
A自傷行為(頭部抜毛)
B他傷行為(他園生の鼻に指を入れる)
2.入所年月日
昭和56年4月1日入所 (現在 在園期間 20年 38歳)
3.ケース紹介(入所当時)(福岡県精神薄弱者更生相談所の所見より)
(1)氏名 M・M (女性) 生年月日 昭和36年3月2日生
(2)知的面
(昭和56年4月1日)IQ〜14(全訂版田研・田中ビネー知能検査)
MA〜1歳11ヶ月
(平成8年11月27日)IQ〜11(全訂版田研・田中ビネー知能検査)
MA〜1歳11ヶ月
(3)生育暦(病歴)等
未熟児で誕生。 2ヶ月程病院におり、その間高熱を出す。
出産時体重〜7ヶ月で出生
首の座り2ヶ月 初歩1歳3ヶ月
1歳6ヶ月より2歳の間、ひきつけが月に1〜2度おこる
10歳 養護学校入学〜高等部2年で中退。
昭和56年4月11日(20歳) 鷹取学園入所。
(4)身辺自立状況 ほぼ自立。
(5)更生相談所の判定所見
(医学判定) 特記事項なし
(心理学判定) 落ち着きがない。動作・反応鈍い。簡単な指示には従える。
他人がいる時は甘えられる人がそばにいると、その人にち
ょっかいを出す。好奇心が強く、新しいものにすぐに飛び
つく。根気はない。
言語〜発語「はい。いや」のみ。疎通性欠ける。奇声。
(職業的判定) 単純軽作業
(総合判定) 精神遅滞の程度 重度
施設適応性 あり
療育手帳 A
身障手帳 なし
4.入所当時の状態
テレビのチャンネル争いで自分の思う様にならないと相手を叩く事が見られていた。1ヶ月程するとその件は落ち着いているが、傘焼きや不満の解消としてか、職員の見ていない所で服破り(自分の私服)が見られ出している。服破りに関しては他園生とのトラブルや、自分の気に入らない事を強制させられたり、怒られた時、心配事がある時に行う事がほとんどであった。 (手書き担当者日誌 1)
問題点〜傘焼き・衣類破り (手書き宿直日誌 2)
5.経過(ケース記録より)
(昭和57年度)
他園生(K・Nさん)や職員から同じ事を何度も指示されたり、注意されると興奮し、大声を出す行為が見られている。口うるさく言われる人からの関わりを大変嫌うが、その他の人との関わりも嫌う為、コミュニケーションが全くとれない状態。本人も上手く対応出来ない事での不満からか、破衣行為が見られている。問題に対しては本人の手を取り、正座をさせたうえでゆっくり話しをする様にすると、少しづつ落ち着く事が出来ている。破った衣類は必ず自分で持って来てから訴える為、注意後、毎回修繕し渡す事としている。この年は服破りの他に2度の自傷行為(抜気)と衣類のボタン契りが始めて見られ出している。
問題点〜衣類破り・自傷行為(抜毛)・ボタン契り
(手書き宿直日誌 3)
(昭和58年度)
職員に自分の言いたい事が上手く伝わらなかったりその事で注意を受けると、その場で癇癪を出し、不満となってボタン契りや髪を抜く行為が見られている。他園生とのトラブルも相手が興奮した時に大声で奇声を発し、職員へ何とかする様に訴えている。すぐに興奮する園生、口うるさく言う園生はあまり好きではない。嫌いな人には、普段より余計に気になる様で、何かと気にかけ行動を見ているといった事も見られる。この年は自分の不満を服破りで解消する様な行為はほとんどなくなっているが、その代わりに自分の衣類のボタン契りが見られている。
問題点〜自傷行為(抜毛)・衣類破り・ボタン契り
(手書き担当者日誌 4) (チェック表 5)
(昭和59年度)
本人の好まない事(掃除等)や指示をされたり、職員からの注意に対し興奮し、大声を出す事が見られる。また、口うるさく言う園生(S・Tさん)、自他傷行為(M・Sさん)をする園生が近くで興奮していると、実際本人は関係なくても、いじめられると思ってか奇声を発し、職員へ訴えて来る事がある。身の危険を感じる事や、自分の気になってる事に対しては、大声で興奮しながら奇声を発し訴えて来ている。声掛けするとそれで少しは安心する様で、徐々に落ち着く事が出来ている。今年度は抜毛まではいかないが、指に髪をぐるぐる巻きつける行為がほぼ毎日の様に見られていた。また、破衣行為はないが、原因不明の作業服のボタン契りが多く見られており、5〜10月までは自分の分だけだったのが、12月からは他園生の分まで取ってしまっている。髪いじりに関しては興奮した時に出る場合もあるが、いつも触っており、癖の様にもなっている。
問題点〜衣類破り・自傷行為(抜毛)・ボタン契り(多い)
(手書き訓練記録 6) (年間クラスまとめ 7)
(昭和60年度)
口うるさく言う園生(S・Tさん・S・Fさん)の声掛けを嫌がる傾向にある様で、何か言われると興奮し押したり、しこを踏む行為が見られる。相手が他傷行為をしない限りは奇声を発す事もなく、本人も強気の姿勢で向かって行っている。髪抜きまではいかないが、精神状態が不安定な時に髪を触ったり、手持ちぶたさの時も扱っている様である。ボタン契りに関しても同様だが、作業では飽きると暇を持て余す様に行なっている様でもある。 (手書き訓練記録 8)
問題点〜ボタン契り・しこを踏む行為が見られる
(手書き訓練記録 9)
(昭和61年度)
担任が代わった事で信頼関係が成立せず担任への拒否が多かった。本人の嫌いな掃除を毎日させられる事に不満を持ってか、6〜10月頃まではその事での抜毛も多かった。
9月半ばより本人が歯槽膿漏となり、その件で担任が歯茎のマッサージを行なう事となる。本人とマンツーマンでの関わりとなる事で、「自分だけの愛情」を感じたのか、10月頃より本人からも側へ来る事が見られる様になる。関わりが少しずつとれて来た事もあってか、掃除に対しての声掛け、指示も興奮等なく聞き入れる事が出来ており、11月以降は抜毛もなくなり髪いじりで落ち着いている。今まで見られていたボタン契りは確認されていない。
班活動(手芸班)〜ボタン契り、服破りがある為に手芸班に替わる。理由は破衣は簡単だが、物を作る事(ボタンつけ・服を縫う事)が大変であるという点を理解させる為。
(手書き担当者日誌 10)
問題点〜自傷行為(抜毛) (チェック表11)
(昭和62年度)
同室者(T・Yさん)がよく喋り世話好きな人である為か、嫌う傾向にある。自分のものを人に触られたり、関心を持たれる事を嫌がる為、T・Yさんとの関かわりが苛立ちにつながっている。その事の不満でか5月は抜毛が多く見られていた。その他の月は抜毛は確認出来ていないが、ちょっとした事で興奮し、相手をつき飛ばしたり、奇声を発したりする事もあり、常に苛立っている様な感じだった。職員の関わりも嫌がる事がある為か、本人から職員へ関わって来る事もあまりなかった。しかし、指示は素直に受け入れる事が出来ている。だが、自分の間違いを指摘されたり、気持ちが先走りだすと指示が全く受け入れられずパニック状態となっている。その為、少し落ち着いた頃合を見て注意を行なう事を要している。T・Yさんの夜間の起き出しにも反応し一緒に起きていたり、奇声をあげながら徘徊したりと、全く落ち着かない状態が月に何度か見られている。
班活動(手芸班)〜運針等の難しい作業内容を与えた。その為、新しい事への緊張と、同じ班の園生が能力的に高かった為に、自信に欠ける面が見うけられ、不安定になった。
(手書き宿直日誌 12)
問題点〜自傷行為(抜毛) (月別個人経過 13)
(昭和63年度)
今年度T・Yさんとクラスが別々になったが、K・Yさんと同室になる。K・Yさんは耳が遠い為、テレビの音やカセットの音を大きくし聞く事がほとんどである。本人は大きな音、騒がしい雰囲気を嫌う為か嫌がり、相手を押し倒したり、部屋に閉じ込めたり、テレビのコンセントを抜こうとする行為が見られ、職員の注意に対しても自分の要求が受け入れられない事でしこを踏んだり、自分の意思が通らない時は、指示を受け入れない事もあった。同室の為かその事が原因でのけんかが多く見られている。
(手書き担当者日誌 14)
問題点〜自傷行為(抜毛)
(平成元年)
今年度、昨年と同室のK・Yさんとクラスが別々になった事で、カセットやテレビの音を気にしてのトラブルはなくなっている。帰省前、行事前等は落ち着かず、職員に確認を求めて来る事が多く見られている。その他に髪いじり、走り込み、睡眠不良、奇声等があるが、それ意外は落ち着いた状態。同室者が帰省すると帰園を気にし髪いじりが多く見られているが、ねじる程度で抜毛はほとんど確認していない。
問題点〜自傷行為(抜毛)・髪いじり (手書き担当者日誌15)
(年間クラスまとめ 16)
(平成2年度)
同室者の帰省や行事前は落ち着かず、職員へ確認を求めて来たり、ジャンピングや髪いじりが多く見られている。興奮気味である為か、頭部がうすくなっているのを確認した時もあった。だが、それ意外は安定しており落ち着いている。
問題点〜自傷行為(抜毛)・髪いじり (手書き担当者日誌 17)
(平成3年度)
通常の日課の場合は比較的落ち着いているが、帰省前や行事前は落ち着かず、興奮しながら指を折り確認して来る事や、髪いじり、ジャンピングが見られる。また、行事前の興奮で嘔吐、熱発する事も数回あり。本人の気になる物、事に関して職員に聞いて来る事が多く、8月頃より珍しく宿直者の後追いも見られる様になる。また、12月頃より食堂で隣の席になった園生(N・Oさん)に興味を示す様になり、N・Oさんの鼻に指を入れる行為が見られ出している。 (手書き行動記録 18)
問題点〜自傷行為(抜毛)
他園生(N・Oさん)の鼻へ指を入れる
(年間クラスまとめ 19)
(平成4年度)
昨年度12月頃より食堂の席で隣同士になった園生(N・Oさん)に対し興味を持つ様になり、N・Oさんが食べ終わるのをよく待っている事が見られた。また、場所、時間に限らず、姿を見つけると近くに寄って行き、N・Oさんの鼻に指を入れる行為が多く見られていた。だが、N・Oさんから激しく拒否され、叩かれてからはほとんどなくなっている。
問題点〜髪いじり・他園生(N・Oさん)の鼻へ指を入れる
(チェック表 20)
(平成5年度)
他園生(N・Oさん)の鼻に指を入れ様とする事はあるが、N・Oさんからの拒否や職員の注意、声掛けですぐにその場を離れている。6月半ばからは全くなくなるが、その変わりとして同室者(T・Oさん)の世話をやきたがり、歯磨きの準備や下着交換をさせようと洋服を脱がす事が見られ、人への興味が見られて出してきている。同室者が帰省すると帰園するまで落ち着かず、確認やジャンピング、奇声、髪いじりをして訴えて来る事が多く見られていた。
班活動(軽作業2班〜絞り運針・草木染め・粘土工芸等)N・Oさんとも同じ班となり、6月頃までは鼻に指を突っ込む行為が時々見られたが、その後は全くなく落ち着いている。だが、糸を扱う作業の為、糸いじりが多く、時折糸を口にしており注意要している。
(チェック表 21) (チェック表 22)
問題点〜髪いじり
(平成6年度)
女子棟より重度棟へ移動するが、女子棟が気になるのか何度か出向いたり、重度棟廊下や非常出入り口で一人で座っている事が多かった。今年度は同クラスの園生全員が、身辺面が自立している事もあり、世話をやく必要性がない事でもの足りなさそうであった。
問題点〜髪いじり
(平成7年度)
職員からの注意に対し興奮して奇声をあげたり、手を叩いたり、しこをふむ事が見られる。また、癖になっている様で、指遊びが頻繁に見られ、髪いじりや衣類の糸いじりで本人なりに情緒の安定をはかっている様である。
問題点〜髪いじり
(平成8年度)
行事前落ち着かず、興奮して担任にバイバイと拒否気味に手を振って来たり、奇声を発する事が見られる。担任が変わった事で関わりを多く持とうとするが嫌がるため、遠すぎず、近すぎずの関係で接した状態。髪いじりが主で抜毛まではいかないが、行事前、精神的なものから居室の窓外に嘔吐する行為が見られている。今年度よりA・Kさんと同室になり、本人なりに可愛がっている様で、団欒時には同室のA・Kさんの頬にキスをする行為が見られている。また、夜は本人なりに世話をしようと思ってか、着替えさせようと下着を含め全部脱がす事もある。
問題点〜髪いじり
(平成9年度)
クラスと作業担当が一緒であるが、本人からの関わりは何か用件のある場合しか訴えて来る事がなかった。人からの関わりを嫌う為、過剰な関わりは避け、本人が日課としている同室者(A・Kさん)の衣類畳みを一緒に行う事を通じて関わりを持つ様にしている。余暇は居室に寝そべりテレビを観る事や、同室者の世話を本人なりにする事で落ち着いている。だが、A・Kさんに対しては過剰な関わりも度々見られたり、自分の思う通りにならないと突き飛ばしたり、布団をかぶせる等の行為がありその都度注意要している。
問題点〜髪いじり
(平成10年度)
他園生、職員からの過剰な関わりを嫌い興奮が見られる。本人の用事のある時でしか自分から関わって来る事がない状態。行事前や他園生が帰省すると帰園を気にし確認を求めて来る為、その都度伝える事を要している。
問題点〜髪いじり
(平成11年度)
担任が替わるが、班で2年間一緒だったという事もあり特に大きな抵抗はない様。だが、過剰に関わりすぎると興奮し、奇声を発したり、指に髪を巻きつける事が見られている。普段は担任への関わりも見られないが、気になっているもの(ジュース・おやつ・行事)の確認に関しては、一度伝えても短時間で繰り返し聞いて来ている為、その都度伝える事を要している。9月半ばより、毎日何度もその日の宿直者を気にし確認を求めて来ており、特に特定の男子職員(本田指導員)が気になる様で、メガネのジェスチャーをしながらいつも担任に確認を求めて来ている。同室者(A・Kさん)とも普段接点は見られないが、気に入っている様で、職員が見ていないすきに頬にキスをする行為が見られている。
問題点〜髪いじり (検索 23) (検索 24)
6.改善点
@傘焼き
入所当時の昭和56年度に見られていたもので、数ヶ月後はなくなっている。
A破衣行為
入所当時の昭和56年度より昭和58年度まで、不満の解消として見られていたが、昭和59年度より、ボタン契りに移行している。
B自傷行為(抜毛)
不満の表れとして昭和57年度から見られていたが、トラブルとなる園生とクラスが離
れた以降の平成元年より落ち着く。また、人への興味が見られ始めた平成3年度以降は
髪いじりの行動として見られている。
C他園生の鼻に指を入れる
特定の園生に興味を持ち出した平成3年、4年に本人の愛情表現として見られ出したが、
その園生より注意を受けた事で以後はなくなっている。
7.改善に至った要因
入所以来、不満の解消として破衣行為やボタン契り、糸抜き、自傷行為(抜毛)が見られていた。班も色々な面を試そうと農園芸、手芸、陶芸、紙粘土、紙工芸と替えたが、昭和62、63年度、服を解体する破衣行為があった為、糸抜きの防止策として、縫うという事がどれだけ大変かという事を本人に理解させてみようと、手芸班で運針作業をさせるようにして状態を見た。運針の練習をさせて見るが点線通りに縫えず、間隔が細かくなり返し縫いも見られていた。上手く出来ない事や職員の指示が理解出来ない事もあり、その年は自傷行為(頭部抜毛)が目立って多く見られている。その為、翌年より再度他の班(園芸班、陶芸班)へと替わった事で、作業上でのストレスはなく、自傷行為(抜毛)は急激に減り、髪いじりに移行している。作業での成長はほとんど見られなかった。その為、平成5年度、再度軽作業2班(手芸班)に変更し、運針作業を行う事とする。その時は4、5年前一度行っていたという事もあり、点線上を縫わせてみると意外と上達が見られ、以降、現在の染色班で絞り染めを行う事が出来る様になっている。昭和61年〜63年に実施した手芸班での経験と、その後他班を経験出来た事が本人の自信につながったと思われる。
8.まとめ
人からの関わりを嫌う為コミュニケーションも取りにくく、本人の事が上手く理解出来ず、また、本人としても解ってもらえない事で不満となり破衣行為・ボタン契り・自傷行為(抜毛)として表れている。特に言葉がない事も上手く表現出来ない表れである為、攻撃的となっている様である。そういった園生だからこそ、余計人間関係の必要性を考えさせられると同時に、相手の性格を知る事や声掛けの必要性、関わり方の重要性が問題となって来るのだと思った。また、毎日行っている作業がいかに情緒の安定につながるかが大きな観点となる。毎日の作業の大事さが、積み重ねとして大きく影響してくるものと思う。今後も、対象園生と少しでも良い人間関係が持てる様、努めていきたい。
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