--- 鷹取学園20周年資料 ---


           施設生活、不適応の改善事例
                    平成12年4月1日
                  個人別ケースまとめ担当者
                            指導員  谷口 敦子
1 問題であった具体的内容
@自傷行為  (腕を噛む)
A他傷行為  例(叩く・噛む・髪を引く)
B無断外出
C破損行為
D拘り    例(気に入った衣類・ラジカセ・シャンプー・化粧水・入浴準備)
2 入所年月日
  昭和56年4月1日入所    (現在 在園期間19年 36歳)
3 ケース紹介  (入所当時)(福岡県精神薄弱者更生相談所の所見より)
   @氏名   K・Yさん  女性   昭和39年4月4日生まれ  
   A知能面    IQ  16    MA  2歳6ヶ月
   B生育歴 
      出産時体重    2、800g  
      首のすわり    3ヶ月    始歩   2歳   始語
      4 歳      九大受診
      8歳〜16歳   養護学校
      11歳〜16歳  精神安定剤服薬
      16 歳     鷹取学園入所
   C身辺自立状況
      指示すれば、どうにか自立 
   D更生相談所の判定所見
      (医学判定)  小頭症である
      (心理学判定) 日常的な簡単な聞きとりは可能で、簡単な指示には従う事
              ができる。新しい環境になじみにくく、なれるまで落ち着
              きなく、興奮しやすい。涙を流したり、奇声を発したり、 
              自分の手を噛んだりする。
      (職業的判定) 単純作業であれば訓練の可能性有り。
              気が向けば作業に従事。気長な指導が必要。
      (総合判定)  最重度、言語障害(奇声)
              施設適応性については経過観察、個別的保護指導の必要が
              ある。

4 入所当時の状態
  入所前から続いていたとの事だが、本人の意思が通らない場合は寝転んで激しく手足
  をばたつかせてぐずる、また、自分や他者に噛みつく、つねる、髪を引く自他傷行為
  がみられる。園外にでる無断外出も頻繁にみられている。
  このように、多くの問題行動がみられた為、その減少と情緒の安定を図る事、つぎに
  本人の変化に伴った対応で、より集団適応を高めていく事を指導方針とする。

5 指導経過(ケース記録より)
  *添付資料は、19年間のデータの中より今回のまとめの部分のみを抽出し、特筆す
   べき箇所を選択したものです。   
(1) 昭和56年度(入所)
初めての集団・施設生活であり、年齢的な甘えや依頼心がみられる。入所当時より、頻繁に自他傷行為がみられ、本人の意思表示としての自傷行為で、要求を通そうとする。4/20〜6/13安定剤与薬(睡眠障害・興奮・不安定のため)
10月11日に職員の車に乗り傷をつける。(報告書@ 参照)S001
他の園生の私物を扱う、壊す。無断外出も不特定場所、時間にみられている。
                (外出状況資料 参照)S002 (2) 昭和57年度
集団生活の雰囲気や日課の流れには、声掛けで応じるようになったが、引き続き自他傷行為は頻繁に見られ、日課を嫌がったり、注意を受けた時などのわがままからくる自他傷行為が目立っている。(日誌@ 参照)S003
8/25 無断外出有り 警察に保護される。(無断外出報告書 参照)S004 (3) 昭和58年度
自傷行為については、人(職員)の気を引く為のものが多く見られ、他傷行為は、同室の園生に消灯後に行うというケースが目立っている。(日誌A 参照)S005
器物破損で、服を破るという行為が初めてみられる。 
(4) 昭和59年度
自傷行為の数が急増している。他園生からの関わりを嫌がって、職員の気を引く為のもの、生理との関係とがあげられている。自傷時の対処として、厳しく注意をする事から、本人を慰めるような形で話しをしていくように変更すると、後を引かず長引かなくなっている。 (まとめ@ 参照)S006 器物破損では、興奮した時に同室の園生の持ち物や居室の備品などを壊す行為、また、本人の気に入らない物を破る行為が目立っており、12月頃よりタオル破りが頻繁にみられている。
他園生の私物を持ち込む事はなくなったが、いらない缶等を収集する事が多くなる。
気に入った衣類への執着が強く、自傷行為を行う原因の一つとなっている。
(5) 昭和60年度
4月〜9月までの自傷行為の回数が多く、自傷を行う時の宿直者が限られており、宿直者を気にしての行為が多い。本人が安心して生活できるよう、自宅からの電話を実施してもらうが、逆に気にして自傷を行うケースもみられている。自傷時の対応は、昨年同様。自傷行為があった時に器物破損を一緒に行うケースが増え、服、タオル、居室のカーテンに集中している。無断外出はみられていない。
(6)昭和61年度
   60年12月より、学園全体の園生の数が70名になり、新しい職員や園生が加わ
   っての自己存在の為の不安定がみられた。
   職員が見える、聞こえる所での自傷行為が頻繁に見られ、注意を行うとさらにエス
   カレートする事が多くみられている。
   6月に特定の園生に執着気味となり、激しい他傷行為が見られ部屋替えがあってい
   る。以後は、部屋替え後に同室となった園生からの細かい指示や声掛けを嫌がって
   の他傷行為がみられ、他傷行為の数値の半分近くをしめている。自他傷行為ともに
   一度の興奮ではおさまらずに、すぐに繰り返し行っている状態。
   ゴミあさりへの執着がみられる。
(7) 昭和62年度
今年度より重度棟で2人部屋となる。環境の変化で本人の気分転換になるように
コミュニケーションをとるが、担任が代わった為か甘えからくる自傷行為がみられ、
減少するまでには至っていない。
学園外への無断外出が1度みられる。
(8) 昭和63年度
前年度と比較して自傷行為の回数が減少している。原因としては、班がかわった事、
担任、クラスの園生に変更がなかった事があげられている。他傷行為については、他園生の関わりを嫌がってというケースが多い。
器物破損については、スリッパを新しい物に交換してもらいたい為に破る行為が頻繁にみられている。
無断外出は、夜間の園庭の徘徊で、学園外に出る事は無し。
タオル等を破る行為が頻繁であった為、次年度まで班で裂き布作業を行う。
(9) 平成元年度
今年度、女子棟に戻り4人部屋になったという事もあり、職員や同室者に対しての甘えが強くみられている。その為、関わりを嫌がられたり、本人が甘えているうちに興奮しての自他傷行為があっている。行事、散髪等を気にしての自傷がみられる。
  無断外出は昨年同様、夜間の園庭の徘徊。

(10)平成2年度
  重度棟に戻る。同室者の変更は無いが、男子園生が同じクラスであり、可愛がられ
  ており本人も喜んでいる。全体的に宿直、日直の時間帯に多く、甘えからの自他傷
  行為がみられている。年度の後半になると便秘気味になり、その事での体調不良と
  イラツキからの問題行動がみられている。(日誌C 参照)S007
  入浴準備の衣類をバスタオルで包み直す行為への執着が始まる。
  昨年に続き裂き布作業実施。今年度を境に、タオル破りが無くなる。
 (11)平成3年度
  問題行動時の職員の対応を、原因の追求と、甘えて良い時悪い時の区別を意識させ
  る事に統一。状態に合わせた処置方法を考え、職員間での伝達を徹底している。
  自傷行為、破損の回数は減少している。
  園外(特定の場所)への無断外出が3度みられている。(日誌D 参照)S008
  入浴準備へのこだわり続く。
(12)平成4年度
  特定の職員(新しい担任・新人職員)を試すような問題行動(自傷・他傷・徘徊)が頻
  繁にみられる。他傷については、甘えから職員に噛みつく行為がみられている。
  行事、気に入った衣類にこだわっての問題行動もみられ、甘えと執着が強くみられ
  た年。スリッパを遊び的に破る行為が頻繁にみられている。
  無断外出については、園庭などの徘徊。
  4月2日の宿直時に徘徊していて食堂に閉じ込められる。(資料 参照)S009
(13)平成5年度
  5月3日に父親が亡くなる。問題行動は減少するが、情緒的には不安定さが強くみ
  られ、甘えが大変強い。
  担任不在時に破衣行為が目立ち、気に入らない衣類をトイレに流す行為がみられる。
(14)平成6年度
  行事を意識しての自傷行為がみられる。新人職員が宿直である場合が多く、試すよ
  うな行為は続いている。他傷行為は減少。
  母親が入院され、なかなか帰省できない事も問題行動の原因の一つであると思われ
  る。職員への甘えが強い。
  ぬいぐるみ、ラジカセへのこだわりがみられる。
(15)平成7年度
  ラジカセへのこだわりが強く、気にしてのぐずりや自傷行為が頻繁にみられている。
  また、なかなか落着かない激しい自傷行為が目立っている。
  器物破損については、興奮した時にラジカセを投げて壊し、それを見てぐずるとい
  いうケースが多い。(日誌E 参照)S010
  無断外出については、夜間の徘徊を含め今年度以降はみられない。
(16)平成8年度
  担任が本人の伝えたい事を理解するまでの間は自傷行為が頻繁にみられている。意
  志の疎通がある程度できるようになると落ち着いてきている。
  ラジカセの電池交換に大変執着しており、その際の自傷行為や投げて壊すなどの器
  物破損などの行為がみられている。
(17)平成9年度
  11月に母親が亡くなる。また、弟宅に子どもが生まれ帰省できない事でのぐずり
  や甘えが見られる。自傷行為は宿直時間帯がほとんどで、宿直の職員もほぼ決まっ
  ている状態。
(18)平成10年度
  他傷行為は無し。行事、入浴準備を気にしての自傷行為がみられるが、前年度に比
  べると減少している。器物破損についても、他園生や公共の物を壊す事は無くなっ
  ている。
  今年度より入浴準備の衣類を職員にバスタオルで包み直して貰う事に過剰な執着が
  みられている。それについては、団欒時に本人と一緒に行う事で対応している。
                    (まとめA 参照)S011
(19)平成11年度
  班が変更になったが特に不安定になる事は無し。自傷の回数は昨年より若干増加し
  ているが、激しい自傷行為はみられず、手に噛み跡が残るような場合も少ない。
  他傷行為については、他園生からの過剰な関わりを嫌がって行っている。
  入浴準備へのこだわりは依然続いている。

*問題行動については、問題行動状況(グラフ)参照。S012  
6 改善点
@自傷行為   入所当時はほぼ毎日行っていたが、月に1〜2度程度になった。
  A他傷行為   本人の気分(イラツキ等)による他傷行為は見られなくなった。
  B無断外出   園外への無断外出は昭和63年を境に、夜間の園庭の徘徊につい
          ても平成7年を最後に、以後は全く見られなくなっている。
  C器物破損   タオルやカーテン等の学園の物、他園生の私物を壊す行為は、平
          成2年度より減少し、現在ではほとんど見られない。

7 改善に至った要因   
  改善に至った要因についてはいろいろと考えられる。施設生活・集団生活が始めて
  であった入所当時から現在までを振り替えると、上述した問題行動状況(グラフ)
  でも見られるようにゆるやかではあるが減少している。若干の上下はあるものの、
  月日を重ねるごとに学園生活(集団生活でのその場独自のルール、人間関係)に慣
  れていった事、また、問題行動を行った際におかしいという事を繰り返し言ってき     
  た職員の指導が、ゆっくりとではあるが彼女に伝わっていったのではないかと思わ
  れる。また、平成5年に父親、平成9年に母親が亡くなった事は彼女にとっては大   
  きな出来事であり、その後の問題行動の減少につながっている。
  平成7年度より学園の体制が変わり、昼は作業(仕事)、夜は余暇(生活)という
  環境の変化に上手く対応でき、メリハリのついた生活を送れるようになった事も、  
  彼女が近年落ち着いてきた要因の一つと思われる。
  器物破損で見られていたタオル等の布を裂く行為については、昭和63年から2年
  間ほぼ毎日、作業でタオルを裂いて座布団を編み込む裂き布に取り組んだ事がきっ
  かけとなり、減少につながり現在ではみられていない。
8 まとめ  
  最重度であり、言語によるコミュニケーション手段が取れない園生にとって集団生
  活への適応を図る事は難しく、しかも情緒的に不安定になりやすく、問題行動を伴
  ったケースでは集団生活を乱すような事も多く見られる。しかし、彼女のように集
  団を通した接し方、位置づけを展開する事によって、問題行動の改善、集団生活へ
  の適応が図られる事も事実である。職員との関わりを通して、他者との関わりや集
  団生活をする上でのルールを理解させていき、情緒の安定と問題行動の軽減を目指
  した20年間のケース記録をかえりみて、現在から見た彼女の変化を確認してみた。
  集団生活の中での日課・作業への取り組みについては、本人が学園での生活に慣れ
  始めた頃より、自発的な集団への参加ができており、現在ではちょっとした環境の
  変化で情緒が不安定になるような事は、ほとんど見られなくなっている。自傷行為
  については、甘えからの行為は続いているものの、本人の意思を伝える為の行為
  (不調の訴えや、生理を知らせる等)については、言葉のかわりにジェスチャーで
  伝える事ができており、彼女の20年間での成長がうかがえる。
  今後も、周囲の変化に適応でき、より自己統制・コントロールができるような関わ
  り方をしていきながら、本人が楽しく学園生活を送れるよう、さらなる情緒の安定
  を図れるように援助していきたい。    


                                                                                



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