--- 鷹取学園20周年資料 ---
ダウン症人間関係の改善事例
平成12年4月1日
個人別ケースまとめ担当者
指導員 大江芽久美
1、問題であった具体的内容
@ 偏食
A 人間関係〜集団の中に入ろうとしない、入れない状態。
2、入所年月日
昭和62年7月5日入所(在園期間 12年8ヶ月)
3、ケース紹介(入所当時 福岡県更生相談所判定書より)
@氏名〜I・N 女性 昭和44年5月10日生まれ 30歳
A知的面〜IQ22(TーK式) MA3歳10ヶ月
B生育歴〜出生後、生命危機の為入院。当初、ミルクを吸う力もなく保育器に入る。
ダウン症と判明。
C身辺自立状況〜大体自立。
偏食が激しく、ご飯、麺類は食べるが肉、魚は全く食べない。
D更生相談所の判定所見
(医学判定)ダウン症
(心理学判定)頑固な性格。興味を示すものには関心を持つが、以外は
興味を示さずに声掛けにも拒否的である。音楽が好きで
全般的に聴く。
(職業的判定)単純作業向き。陶芸のろくろを回す事が一番の楽しみで
ある。
(総合判定)重度
4、入所当時の状態
幼児期の病気の影響で著しい偏食状態で入所し、白い食べ物しか摂取しないという偏った傾向にあった。当初から居室にこもりがちで職員、園生との関わりが乏しく、孤立している状態であった。彼女の13年間を振り返りながら人間関係の広がりをたどっていきたいと思う。
5、指導・訓練方針と基本的考え方
著しい偏食であることから、全てにおいて少しづつ本人が興味を持つ部分を広げていくことから始める。主食のご飯のみしか食べれず食範囲が狭い為、健康面には十分に配慮しながら、偏食指導を行う。また、人間関係を広げつつ、作業意欲を持たせながら学園生活を充実出来るようにする。
6、年度別の経過内容
以下のように問題点である偏食、人間関係の改善について年度別に一覧表にしてまとめてみた。人間関係については、余暇時間の過ごし方のデーターをまとめることで変化がつかめると思う。
年度
担当者
作業班
食事摂取状況
余暇の過ごし方
人間関係
偏食について
洗濯班
主食のみの摂取
自室にてカセットを聴
殆ど関わりを
S62
野見山指導員
*偏食指導は行
いて過ごす。
持たない
7月
っていない
お面作り
入所
園芸班
主食、汁物を摂
カセット使用は減り、
後半より○○
S63
野見山指導員
取
本を眺めることが
さんの居室にカ
多い。
セットを借りに行
く事あり。
軽作業
汁物も殆ど摂
殆ど自室に閉じこ
○○さんのカセット
H1
野見山指導員
2班
取。家庭で摂取
もっている。
を勝手に聞く。
(草木染めレターセット作成)
する物は学園で
も摂取している
宿直日誌資料1
手書き宿直日誌資料2
軽作業
前年度と変わら
○○さんとカセットを
○○、△△君
H2
安永指導員
2班
ず、麺類は好ん
一緒に聴く。
への過剰な関
(草木染めレターセット作成)
で摂取。
わり、◎◎さんの居室でのカセット使用を嫌う
軽作業2班
食べれる物のみ
○○さんのカセット使
宿直時間でも
H3
仲谷指導員
(草木染めレターセット
摂取、声を掛け
用。
○○さんのカセッ
作成、運針作業)
すぎると嘔吐も
トを聞きに行っ
見られる。
ている。
軽作業
主食はふりかけ
自室にて本を眺め
○○さんとカセッ
H4
仲谷指導員
2班
を使用して摂
る。
トの件でトラブル
(草木染めレターセット作成)
取。汁物は声掛けで少量摂取。
発生。担当者日誌資料3、2月、我が侭
ひどく登園拒否。
担当者日誌資料4、5,6,7
H5
仲谷指導員
陶芸班
班年間纏め資料8、資料9
夏以降、主食を半量残す事が目立っている。
長期帰省後、登園拒否一度あり。同室者
の世話を行い出す。
担当者日誌資料10
H6
横手指導員
陶芸班
主食にふりかけを使
居室の所定位置で雑誌を
帰園拒否はなし。
用して摂取。
眺める。
H7
横手指導員
陶芸班
主食にふりかけを使
居室で雑誌を見て過ごす
重度のクラス園生の
用して摂取。
世話をしている。
クラス年間纏め資料11
H8
田川指導員
陶芸班
主食にふりかけ、ご
同室の■■さんと遊ぶこ
宿直時間に余暇の広
ま塩を使用して摂取
とが多い。本人がかなり
がりを試みるが拒否
するが全量摂取とま
気に入っている様子。
的な態度。
ではいかない。
クラス年間纏め資料12
H9
田川指導員
陶芸班
主食にふりかけを使
用。汁物は摂取しな
い。
居室の隅の定位置で本を
眺めて過ごしている。
宿直時、一度だけ○○さんのカセットを見せてもらい
ながらしばらく一
緒に過ごしている
H10
大江指導員
陶芸班
主食を半量ほどの摂取。ふりかけを使用しても残すことが目立つ。
居室の定位置で本を眺めている事が多い。
同室の□□さんの衣類整理、入浴準備は行ってくれている。
H11
大江指導員
陶芸班
主食を半量程摂取。
9月より特別食を実施。詳細は下記参照
余暇は、自室で過ごすが同室者との関係は良く重度者の面倒はよくみてくれている。
同室の▲▲さんを好み、関わりが目立ってきている。
(留意点)
上表より、平成5年に陶芸班へ移動となる。陶芸班へ移動後、学園生活が俄然充実したものへと変わっている。同時に生活面でも、同クラスの最重度者の世話焼きをするようになるのもこの頃である。
@ 偏食については、入所当初は、主食を中心として、汁物も声掛けで摂取出来ていたが、年々摂取状況が悪くなった。職員の過剰な声掛けを嫌う傾向もあり、嘔吐するケースも見られる。偏食状況については、平成11年8月の時点で摂取状況を調査した結果を以下に記す。
食べ物
学園での摂取状況
家庭での摂取状況
主食(白ご飯)
○
○
うどん
少量、声掛けで半量
○
肉・魚
×
×
白い物(豆腐・餅)
○
○
スパゲッテイ
×
○
フルーツ・デザート類
○
○
野菜類(トマト・キャベツ)
声掛けで○
○
汁物類(味噌汁、スープ類)
×
×
餅
○
○
又、以上が本人が現時点で口にする食べ物の内容であるが、その他ジュース類は飲め、平成11年の帰省中には、母親と一緒にケーキ作りを行ったり、インスタントラーメンを一人で作って食べたり等料理について興味を示すなど変化のきざしが見られる。実際、どんな事がきっかけで他の食べ物を口にするようになるかは予測できない。精神面を語るとき、偏食と人間関係については相通じるものがあると考えらる。具体的には言えないかもしれないが、今後人間関係に関して前向きなきざしが見られる事に期待したい。他の園生に関しても色々な方法で偏食指導を行い成功してきたが、本事例に関しては大変珍しいケースと言える。家庭との連携を取り、協力しながら偏食指導を進めることが重要である。
*外食先での摂取状況は、家庭での摂取状況とほぼ変わらず学園と比較すると良い。
7、改善点
@ 偏食〜入所2年目より偏食指導を始めてみるが、食事、栄養といった点で健康管理のこともあり、今一歩踏み込めないままである。今日に至っても摂取状況はさほど変わらないが、料理を作ることに興味を持ち出したという前向きな態度に目を向け、何かのきっかけをつかみたい。
8、改善に至った要因
特別食を平成11年9月7日より実施となる。特別食に至った理由として、現在の食事摂取状況では、将来的な健康面で維持が難しいと考えられる。施設の食事の中で嫌いなものを残し、食べれるもののみ食べるということでは健康は保てない。そこで、最小限本人の食べれるものをだけは確保して、一日3度の食事に必要な分の食事量を確保し、他の副食も添えるといった方法を試みるようにした。今後とも健康面に配慮し摂取状況の観察を続けていく。
特別食の内容
【朝食】
・毎食を食パン
マーガリン、ジャムを使用し好んで摂取している。
【昼食】
・麺類以外の日は、餅。
塩をふりかけて摂取。初日の日には、職員の腕を取るなど の喜びぶりであった。
【夕食】
・ 白ご飯の確保。全量は摂取せず仕切りを付け海苔を使用して3分の2程の摂取。
9、まとめ
入所当初は、他園生の居室に出向きカセットを使用することでトラブルが発生し、その事が原因で友人関係が疎遠となってしまう。その事がきっかけとなり居室の定位置で雑誌を眺める事が彼女の余暇となっていった。先の平成5年の作業移動後、現在の彼女の余暇は相変わらず本を眺めることが主であるも、クラスの園生と共に洗濯物を畳んだり、ジュース購入時には同室の園生を待つ場等も見られるようになっている。
今後も有意義な学園生活を送れるようになるために、作業面において更なる充実を目指し、生活面については、外食先で食事を摂取したり、家庭では学園と比べ自分で食べれる物が多い為、家庭で食べれた物をチェックし学園でのメニューに加える等していく。学園で一つでも多くのものを食べれるものを提供する方法を取り入れる事で少しでも偏食の改善につなげていき、一つでも自信の持てる事を見つけ出し、彼女の成長を追っていきたい。
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