--- 鷹取学園20周年資料 ---


癲癇発作を持ち、強いしつこさのあるSさんの処遇事例
                             平成12年4月1日
個人別ケースまとめ担当者
                             指導員 田邊理奈                                                 
1、問題であった具体的内容
@しつこさ
2、入所年月日
 昭和56年4月入所(在園期間 19年)
3、ケース紹介 (入所当時 福岡県更生相談所判定書より)
  @氏名〜H.S 女性 昭和32年6月2日生まれ 42歳
  A知的面〜IQ22(S−B式) M.A3歳6ヶ月
  B生育歴〜出産時 逆子(仮死状態 首に妻帯が巻き付いていた)
       始歩1歳6ヶ月 始語1歳6ヶ月〜2歳 離乳3歳
  C身辺自立状況 
     着脱、洗面、排泄は自立している。入浴は指導を要す。生理の始末に
   半介助を要す。
   D更生相談所の判定所見
     (医学判定)癲癇が有り飯塚病院から投薬を受けている。服薬すれば発作がお                           
           さまっている。今後も服薬の継続は必要である。
     (心理学判定)やや抑制に欠け多弁である。感情表出の量は多い。粘着的であ    
           る。行動は規制された場合は時に癇癪を出す。指示には素直に従  
           い得る。性格は人懐こい・明るい・気分の変化がある。幾分頑固     
           な面がある。
  (職業的判定)訓練の可能性はあり。単純作業を適す。  
  (総合判定)重度 施設適応あり 療育手帳A 身障手帳なし
 
4.入所当時の状態
 Sさんは入所当時より強いしつこさと愚図りが強く、執着もある事から注意に対しても癇癪が激しく、自分の頭やお尻を叩く自傷行為や壁やガラス戸に頭をぶつけて割る破損行為があっていた。母親離れができておらず、面会日や帰省日・行事等では必ず母親との別れ際に泣き愚図りがあっていた。入所当時より作業拒否があり、何かにつけ動作緩慢な状態が見られている。また、生理前・生理中と他者に対するしつこさが強く、それによるトラブルや自傷・破損もあっている。本人のもの(鉛筆・ノート)への拘りも強い。


5、指導・訓練方針と考え方
性格の面でしつこいところがあるので、良いことと悪いことの区別をはっきりさせ、指導していく。特に時間のけじめ、友達や職員に対する態度に気を付けさせる。
時間のけじめについては、動作が遅い面があるので声掛けを行いながらそのリズムを覚えさせていく。

6、年度別の経過
(昭和58年度)
  ちょっとした事で泣く・甘えるといった状態が多く、泣き愚図りが続いている。注意に対しても泣き愚図りはあり、その際の自傷も見られる。帰園日に母親が帰宅すると泣き喚き、また、母親との関係ではべったりとしている。
 
(昭和59年度)
  職員が全員集まる朝礼・終礼時に管理棟に出入りする事が多い。また、特定した職員への拘りがあり、しつこく関わっている。生理が始まると非常に甘え・しつこさが強い。

(昭和60年度)クラス年間纏め資料@
  本人のしつこさに対する注意や指示に対して非常に聞き分けが良いが、何かに執着している時に声掛けすれば、ますます執着は激しくなる。発作前後のしつこさが激しい状態。帰省中に母親についてまわる事がなくなり、一人で大人しく遊ぶ事が出来るようになっている。

(昭和61年度) 
  注意に対し、自傷行為が見られる。特に執着した物事への制止には強い愚図りがあり、自傷行為が多い。後期になり特定した職員への執着が続き、それと主に情緒不安定となるが、1月に入り落ち着きが見受けられる。愚図り等に対しては間を置いて声あっけを行っている。就寝前の愚図りが多い。

(昭和62年度)クラス年間纏め資料A   本人の気の向かない事、嫌いな事において愚図る事があり、生理前・生理中にも同状態続く。かなり数的には減少している状態。からすのえんどう(以下 ピーピー豆)への執着も見られている。就寝前の愚図りはほとんど無くなる。面会日後の母親の後追いもあまり見られなくなっている。


(昭和63年度)クラス年間纏め 資料B   職員との関わりが多い事、また、本人が集中して行える仕事がある場合は、指示にもよく従い意欲的である。休みの日や余暇利用でたいくつであると甘えが強くしつこい状態になる。全体的に作業参加状態は良く、指示の受け入れもよい。情緒不安定の時には特定の他者にあたる行為がある。また、起床の際の不機嫌さが目立っており、声掛けに自傷が見られている。

(平成元年度)
  生理前・生理中の衣類への執着や着替えが目立っている。ピーピー豆への執着も見られている。また、行事等で母親が来園する機会が多く、そのため職員への甘えや母親へのしつこい状態が続いている。

(平成2年度)
  作業担当の中野指導員への執着があるものの、その都度の指示には大体従える。相手を見て行動するところがあり、甘えられる職員にはかなりしつこく甘える。本人のストレス解消も考えて、あまりひどい時以外は帰省しないようにした。面会日・帰園日など母親の後追いは、本人にきちんと母親が帰宅した事を話し、面会日などは朝の会時に帰省出来ない事を伝えておくと、本人なりに家族が帰宅した事が理解出来れば愚図りはない。しかし、愚図りを受け入れてくれそうな職員に対しては愚図りが見られている。*破損行為〜8月〜手書き担当者日誌資料C
           11月〜手書き担当者日誌資料D 
(平成3年度)
  5月頃より作業拒否の愚図りが目立ち、8月頃まで続いている。日課に遅れたり、愚図って指示を受け入れないとき等はその都度注意を行い、本人が納得出来るように説明を加えながら指導する。注意はそれなりに理解出来、反省も伺えるがその場のみのため繰り返す。面会日・帰園日などの後追いも目立ち、養護学校付近まで出て行く事が2度ある。*破損行為〜11月〜手書き訓練資料E
              12月〜手書き訓練資料F                                                                                  
(平成4年度)検索資料G            検索
  全体にしつこさは目立つものの、ある程度厳しく突き放していく事でその場のしつこい関わり等を切ることが出来ている。また、本人からの要求に対しては待つ事がなかなか出来ず、すぐに受け入れてもらえないと愚図りや癇癪が見られる傾向にあり、その都度声掛けを要し、甘えの部分がある。面会日や帰園日など母親の帰宅の際には激しい泣き愚図りと自傷行為、後追いが見られ、盆帰省後には母親の後追いから無断外出があっている。


(平成5年度)検索資料9
  癲癇特有のしつこさ等は相変わらず目立つ状態ではあったが、ある程度激しく突き放す事で、その場の状態は切ることが出来ている。しかし、情緒安定の面では、その後のフォローの部分は必要である。状況を見ながら本人の甘えや欲求は受け入れるようにしていった。*破損行為〜11月に一度ずつ検索

(平成6年度)クラス年間纏め資料I
  担任が変わった上に新入園生が入ってきた為、4月は前担任と新入園生に対して、癲癇特有のしつこさが殆ど毎日出ている。それに対する注意の声掛けには、かなり激しい自傷が見られていた。5月に入ると次第に落着いて来るが、やはり行事前後には目立っている。担当の方で拘りの対象から距離をおく状況設定を作ったり、拘りにつながらないように話題を替えることで気分転換を図るとスムーズに取り組める。面会日や帰園日に母親と離れた後は毎回泣き愚図っているが、母親が帰った事と今度いつくるかなどを話し、本人が母親を探すのをしばらく制止して様子を見ている。始めは激しく泣いていたが、次第に諦めが早くなってきて、無断外出も5月に一度あっただけの状態(検索資料J)また、12月、1月の帰園日の送り迎えの際には泣き愚図りがなかった。検索

(平成7年度)
  6月14日、急遽クラス変更となるが、戸惑いは見られていない。癲癇特有のしつこさは相変わらず目立つ状態であったが、ある程度激しく突き放したり声掛けを新柄言い聞かせたりする事で、その場の状態は切る事が出来ている。癲癇特有の性格に関しては、本人の性格的なものが原因となって他園生とのトラブルになることが多い。しかし、後に引きずる事はなし。検索

(平成8年度)検索
  しつこさから同室者を始めホームの園生などに嫌がられたりトラブルがあったりしているが、本人は特に気にすることなく関わっている。特定の園生とのトラブルが多い。他人に迷惑がかかるようなしつこい関わりは、職員が間に入り適度な所で断ち切るように配慮している。*破損行為 7月〜検索資料K

(平成9年度)検索
  面会日・行事で母親が帰られた後や生理中に、本人のわがままが通らなかった場合に泣き愚図りや激しい自傷行為、癇癪が見られている。家に帰りたいと言って愚図る場合が一番激しく、電話は実際にかけないが、受話器を持たせると落着く。しつこさに関しては本人の我がままからくる場合はある程度激しく突き放し声掛けをしながら適度な所で断ち切るようにしている。

(平成10年度)クラス年間纏め 資料L
  面会日・行事などで母親が来園されると、帰省に対する気持ちが強くなり、別れの際には必ずといえるほど激しい泣き愚図りや癇癪が見られている。愚図った場合にはその場から本人を切り離し、納得するまで話しをしている。泣く事は続いているが、徐々に諦めが早く短時間で気分転換が出来ている等、全体的に軽いものへと変化している。その反面、以後の2〜3日は他園生や職員へのしつこい関わりが見られている。
* 破損行為〜11月・12月・2月(検索資料M)
検索
7、改善点
@ しつこさ
A 器物破損
B 自傷行為

8、改善に至った要因
@大発作が起こると大変な状態であったが、精神科嘱託医による毎月の診察経過により投薬が合い、次第としつこさも職員の指示で通るように変化してきた。
A指導員の対応としては拘りが強く、頑固さを通す場面があらわれたときに強い指示を行えば、火に油をさすような癲癇特有の性格を持つ為にその様な場合には一呼吸おいて幾分落ち着いた状態の時に話しをして納得させるという方法で対応してきた。繰り返し繰り返しの日々の積み重ねが現在のようにまでなったと考えられる。

9、まとめ 
Sさんには癲癇気質特有のしつこさや拘り・愚図りが顕著にみられた。人との会話で30数回も同じ言葉を繰り返すような場面が長い間続いた。他園生・職員の関わりにおいて、その性格も19年間の学園生活とともに変化が見られており、少しずつではあるが周囲の人とのコミュニケーションも出来るようになり落ち着いてきている。しかし、他園生との関係においては、本人のしつこい関わりから非難されがちである。一般社会に出ると、なおさらそういった面が目立ってしまうが、さいわい学園生活は一般社会とは違い彼等に対して、周囲で認め合っていける場所である。今までの結果が示すように彼女は学園の集団生活に適応でき、作業にも順応出来るようになった。今後の処遇においても固定観念を捨て、多面的な関わりを持って本人の安定した学園生活に援助を行っていけばまだまだ進歩すると思われる。










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