--- 鷹取学園20周年資料 ---
情緒不安定の改善
平成12年4月1日
個人別ケースまとめ担当者
田邊理奈
1、問題であった具体的内容
@ 情緒不安定
A 他傷行為
2、入所年月日 昭和56年4月入所(在園期間 19年)
3、ケース紹介 (入所当時 福岡県更生相談所判定書より)
@ 氏名〜 H.K 女性 昭和18年10月16日生まれ 56歳
A 知的面〜IQ17(TK−TB式) M.A3歳1ヶ月
B 生育歴〜出産時 正常(妊娠中、母親が栄養失調気味)
離乳2歳 始歩3歳
C 身辺自立状況
日常生活については自立できている。生理の始末に一部介助を要す。
D 更生相談所の判定所見
(医学判定)
(心理学判定)表情乏しい。動作反応鈍い。几帳面な性格の為、決まったところに物
が無かったりした時には興奮して大声で騒ぐ。生理前に情緒が不安定
になり興奮する事が多い。気が向けば家事手伝い等自分からするが、
気が向かなければ一日中布団の中で寝ている。騒がしい所が好きで、
小遣いを持つとすぐに街に出ていって使ってしまう。自分の物を人に
貸す事は殆ど無い。
(職業判定)訓練の可能性は期待できない。
(総合判定)最重度 施設適応あり 療育手帳あり 身障手帳なし
知的障害者更生施設(重度棟)入所が適当
4、入所当時の状態
Kさんは入所当時より情緒不安定による他傷行為が頻繁に見られていた。言語障害や本人の短気な気質から他園生とのコミュニケーションがなかなかとれず、苛立ちからの行為だと思われる。生理前・生理中と精神状況が不安定な状態になる事が多い。その為、周囲に八つ当たりをしたり、体調不良を訴えて寝込んだり、食事を残す等の行為が見られている。また、本人の言語障害から周囲に本人の伝えたいことが十分に伝わらず、苛立ちから手を出すことが多い。また、他人のものを平気で壊し、本人の物を触られると怒りだし、口より先に手が出てしまうのが癖になっていた。
5、指導・訓練方針と基本的考え方
規律正しい生活習慣を身につけ、家と施設との違いを教えていく。また、自分の物と他人のものの区別をつけさせ、他人のものも本人のものと同様に大切に出来るよう指導していく。
短気な面を直し、うそを付かずに素直に他者と仲良くできるよう指導していく。
6、年度別の経過
(昭和58年度)手書き担当者日誌資料@、資料A 資料B
毎日のように周囲へのちょっかいが目立ち、押す・叩く等の行為が続いている。自 宅との電話連絡も保護者の方が留守であることが多く、また、面会日も保護者不参加であった事が度々ありその事でのトラブルもあっている。突発的なトラブルも多かったことで精神的な不安定さが窺える。 *暴力行為〜26回
(昭和59年度)
6・7月とすぐに叩くといった行為が多く見られている。9月には叩く行為が減少したものの、内面的抑圧からか本人の歯を折る行為が見られる。また、胃痛・腹痛といった身体的痛みを訴える傾向にあり、甘え・愚図り等は再三見られる状態であった。保護者との面会状況や生理による不安定が大きな要因として考えられた。 *暴力行為〜26回
(昭和60年度)
行事や生理前後に情緒不安定が目立つ。胃痛の訴え・歯を折る・少しでも本人の気にらない事があると暴力的言動に出ている。髪を引っ張る・顔を叩く行為が多く見られている。
*暴力行為〜11回
(昭和61年度)
行事・帰省前の興奮があり、期待と不安で情緒不安定となっている。顔への攻撃が多い。他者とのコミュニケーション不足が暴力へと発展することが、10・11月と多いが、日頃は昼食後に担任と主にリズムウォーク・散歩・軽いプロレスごっこを行うことで12月以降は低減している。 *暴力行為〜26回
(昭和62年度)
保護者が毎月の面会日に来園されることが多く、その事が本人の心の励みとなり情緒安定へとつながっている様子が見られる。クラス園生への世話焼きも見られている。しかし、行事前には気分的にいらいらすることが多く、担任の身内的配慮が必要であった。髪の毛を引っ張る行為が多い。 *暴力行為〜12回
(昭和63年度)
クラス園生への世話焼きが見られ、やさしく面倒を見ている。行事前にはいらつきも見られており、暴力行為が見られている状態。担当とのぶつかり合いもある。保護者に電話をすることが本人の励みとなっている様子が見られ、また、余暇利用に抹茶を点てる事にも興味を持って取り組め情緒の安定を図っている。 *暴力行為〜6回
(平成元年度)平成元年クラス年間纏め資料C
居室が4人部屋になったことで同室者への不満も見られる。5月には園生・職員に対して他傷行為がある。6月以降より少しずつ暴力は減ってきている。行事前のいらつきも続いており、行事前に自宅に電話をさせることで情緒の安定を図っている。
*暴力行為〜11回
(平成2年度)クラス年間纏め資料D
担当への甘えが強く見られており、本人からのべたついた甘えが目立っている。本人の年齢から来る体調不良やいらつきの為、トラブルも時々見られている状態。特定した他者への他傷が目立っている。注意を行う職員に対して暴力を振るうこともある。6月より精神安定剤の投薬を開始し、以後少しずつ暴力行為の回数は減ってき、精神的なものからくる頭痛の訴えも殆どなくなる。9月に本人のトラブルを注意した担当の車に傷をつける行為がある。行事前のいらつきは見られ、保護者への電話や趣味を生かしながら発散を図っている。 *精神安定剤投薬開始 *暴力行為〜12回 *担任の車に傷をつける
手書き訓練記録資料E
(平成3年度)クラス年間纏め資料F 手書き観察記録資料G
年度変わりのいらつきと帰省前のいらつきが目立つ。特定の他者への暴力行為が見られる。更年期ということもあり体調不良を訴えることも多い。12月より本人の食欲が落ちてきたことで食事を小に変えている。 *暴力行為〜14回
(平成4年度)チェック表資料H
本人の精神安定が保護者に電話をすることであり、その事でかなり落ち着いている。担当が不在の際に他傷行為があっている。更年期障害による気分のむらがある。帰省・行事前には担当と本人との関わりをおおくすることで精神的安定は図れている。
*暴力行為〜4回
(平成5年度)クラス年間纏め資料I
担当不在時に問題行動が多く見られ、情緒的に落着かない事からくるものが大半であるが、本人の気質と家庭環境等からくるものもある。注意には反省あるが、理解力のなさの為かしばらくするとまた繰り返し同行為がある。注意に対する反発や職員に対する暴力はなし。
*暴力行為〜4回
(平成6年度)
精神的に不安があるといらいらするようで、そういった時に他者に対して暴言を吐いたり、叩く・つねる等の暴力行為が見られている。要因として行事・面会日に保護者が参加するかを気にしている事からで、早めに連絡を取って本人が安心納得するようにしている。親子旅行で保護者が不参加であった為、以後より落ち着かず小さなトラブルが続いたため1週間帰省を実施する。 *暴力行為〜9回
(平成7年度)
更年期の為か体力低下や精神的に不安定になることが多い。いらつき・暴力行為・トラブル等は徐々に少なくなっている。年齢とともに落ち着いてきたせいもあるが、体力もなくなりパワーがなくなっている。行事前の興奮や面会日の保護者参加を気にしての腹痛・頭痛が月に2・3度あっている。声掛けで気分転換を図っている。 *暴力行為〜4回
(平成8年度)
更年期の為か体力低下や体調不良により精神的に不安定になること多い。閉経期に入り不順で、本人も不安になっている面もある。行事前に精神面からくる体調不良(頭痛・腹痛)が多い。その為行事前の保護者への電話の回数を増やして対応する。2月より体育時の歩行で下痢便の失便が続いている。精神的なものと思われる。 *暴力行為〜8回
(平成9年度)年間クラス纏め資料J チェック表資料K
宿直時間帯のトラブルが多く、入浴時に口喧嘩をして入浴拒否をしたり、ホーム内では八つ当たりから他者の顔を引っかく等の行為がある。特に面会日前は精神的に不安定なようで、トラブル・いたづらともに多い。寂しさからトラブルを起こして指導員にかまってもらおうとしているようにも思われる。 *暴力行為〜2回
(平成10年度)
日・宿直時間帯など、職員の少なく目が届かないときのトラブルが目立つ、入浴時に作業班の園生と些細なことで口論になったり、体育後の疲れや行事前の苛立ちから他者へのちょっかいもあり、エスカレートしてトラブルにまで発展してしまっている。4月から5月にかけては、特定の他者への暴力行為がある。そのため、クラス替えを行う。1ヶ月に一度の帰省と、担任宿直時の自宅への電話実施でトラブルの軽減を図っている。
* 暴力行為〜8回
7、改善点
@情緒不安定
A暴力行為の減少と暴力の質の変化
8、改善に至った理由
平成2年9月16日に車に傷をつけてまわった事をきっかけに精神科治療を受けた。頻繁に起こる暴力的なことに対し、対応として行うようになったが、2年後よりかなり落ち着きが見られ出した。本人が好む人へのお世話に対して、職員はそれを伸ばすように配慮し、何か悪い事をした場合には、叱るという区別をつけてきた。暴力的な内容としては、叩くにしても、力いっぱい叩き大きな怪我をさせることはなくなり、日常で挨拶のように誰でも叩いていた行為も減少していった。Kさんの場合、第一の改善点としては医療行為が入りそこから指導員の指導が加わり、大きく変化したといえる。
9、まとめ
Kさんは他者とコミュニケーションをとる際に短気な性格と言語障害が邪魔するため、衝動的な行動に出てトラブルを起こすことが当初からの問題であった。この事は未だに続いているが当初の内容とは質的に大きく変化を見て、現在に至っている。入所当時と現在を比較してみると、他園生への暴力行為や破損行為も減少してきている。年齢を追うごとに性格も変化し落着いてきたこともあるが、本人の良いところを伸ばしていった学園生活で精神的安定が図られ、徐々にコミュニケーションの方法と人間関係をつくることを身につけてきた事が大きい。
今後とも職員が本人の不安要素を幾分かでも取り除くように心掛け、精神的安定のもてる楽しい学園生活を送れるよう指導・援助していきたい。
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