--- 鷹取学園20周年資料 ---


      最重度自閉症者の拘りに対する対応例
                      平成12年4月1日
                          個人別ケースまとめ担当者
                          指導員  三 宅 市 郎
1. 問題のあった具体的内容
@拘り(車・倉庫・近郊のブロック会社・日課・職員勤務)
A徘徊(無断外出)
Bてんかん発作(脱臼)
C興奮

2. 入所年月日
  昭和60年6月1日入所  (在園期間 14年10ケ月)

 3.ケース紹介(入所当時 福岡県更生相談所判定所にて)
  @氏名〜N・Hさん 男性  昭和42年12月10生まれ  32歳
A生育歴〜出産時 難産(2800g) 始歩1歳3ケ月 始語8ケ月 離乳1歳過ぎ
   B知的面〜(昭和59年5月)  IQ 19(愛研式) MA3歳0ケ月
        (平成12年3月現在)IQ 22      MA3歳6ケ月       
   C日常生活行動〜声掛けの必要あるが、ほぼ自立できている。
   D身体状況〜特に異常なし。
   E情緒的〜調子が悪い時は自傷、両手で耳を押さえる。衣類を噛むなどの行為があ
        る。自閉傾向があり、気ままにさせておけば大人しい。
   Fコミュニケーション〜日常的な事柄については大体理解できているが、他の人と   
        は本人が気になった事のみ訴えてくる状態。  
   G病歴〜早期小児自閉症。特記すべき重病歴はなかったが、初歩、発語共に遅れる
       など発達の遅れがあった。
   H保健・介護の面について〜平成3年6月、24歳でてんかん発作が始まる。発作前
       には拘りが強く、大声を出し興奮状態になる事が多く見られます。平成4
       年2月よりてんかん薬を服用する。その後徘徊・無断外出が頻繁に見られ
       る事で精神安定剤を併用。平成10年には肩の脱臼が増えてきた事から夜
       間の脱臼防止・無断外出防止として眠剤の服用を行う。
   I作業面について〜単純作業なら可。力はあり、一輪車が使える。
             
 4.入所当時の状態
 養護学校高等部1年在籍の際、当学園の定員に空きができ、本人の今後の事を考え途中退学し、昭和59年4月17日より当学園へ体験入所に至る。そして、翌年6月1日に正式入所する。汽車が好きで、家の近くに駅がある為見に行く。特に機関庫に行き、機関車に触れたがっていた。テレビ・ラジオを聞く事が多く、ごみ捨てに拘り、できないと泣く事があった。性格的におっとりしているが、自分がしようと思った事についてはがんこな面が見られた。
5.経過
(1)昭和60年度(担任:坂田孝博  園芸班)
  4月11日 作業中、職員の制止を振り切って農具倉庫に一輪車やリヤカーを直し
         込む。 (日誌@ 参照)S−001   4月19日 職員のバイクの荷台やマフラーに毎日のようにゴミを置いていたとの
        事であった。(日誌A 参照)S−002
  4月28日 (隣の)ブロック会社にある軽トラックの荷台にスコップやクワを持
        ち出し投げ込む。(日誌B 参照)S−003
  9月1日 特定の厨房職員の軽トラックに空き缶とごみを入れている。
                (日誌C 参照)S−004
   作業の中で、農具倉庫に拘る事が多く見られ始め、道具が決まった場所に直してな
   い時は強引に直し込む事がある。
 
 (2)昭和61年度(担任:豊島  園芸班、8月から訓練2班)
  5月9日  職員の車のワイパー収納部にワイパーを持ち上げ、そこにごみ・小石
        を沢山詰め込んだ。(日誌D 参照)S−005
  7月22日 ブロック会社のトラック荷台に傘10本、靴1足を載せている。
                 (日誌E 参照)S−006   10月8日 朝、軽トラ・ワゴン車の鍵を事務室より持ち出し、それぞれの車に差込
        みロックしている。(日誌F 参照)S−007
  12月13日 特定厨房職員の軽トラックのマフラーに雑誌を詰め込む。それが燃え
        かかり危険であったとの事。(日誌G 参照)S−008    8月から訓練2班へ移った事で、時間内の離脱(筑豊ブロック・農具倉庫)が無く
   なり異常な興奮が少なくなっている。
 
 (3)昭和62年度(担任:豊島  農耕班、6月より訓練2班)
   4月27日 特定厨房職員、また他職員の車に歯ブラシ・チューブ・ラジオを詰め
         込む。  (日誌H 参照)S−009    5月22日 長靴を全て農具倉庫の戸に押し開けて入れた。
              (日誌I 参照)S−010    2月19日 入浴時、下腹部に鉄線の傷があり、玄関横のフェンス下より出た様子。
   (日誌J 参照)S−011
   農耕班に移るが、農具倉庫・特定厨房職員の軽トラックへの拘りが激しくなり、再
   度訓練2班に戻る。
 (4)昭和63年度(担任:豊島  軽作業1班)
   8月9日  夜フェンス下から出て農具倉庫・筑豊ブロックへ出向く。翌朝、特定
         厨房職員の軽トラックにゴミを詰め込んでいる。
             (日誌K 参照)S−012
   3月25日 市内の飲食店の配達用バイクに拘り、興奮強く見られた為110番通報
         される。(日誌L 参照)S−013
   4,5月は農耕班が忙しかった事で、耕運機などの出入りも激しく不安定になって
   いた。5〜7月の間、一時的に前頭部の抜毛が見られる。余暇に8月より缶つぶし、
   土曜日に母親と一緒にプールに行き、エネルギー発散を行う。
             (まとめ@ 参照)S−014
 
 (5)平成元年度(担任:豊島  軽作業1班)
   9月7日  夕食後、公用車の記録簿を各車に入れてロックしている。
             (日誌M 参照)S−015
   1月19日  農具倉庫の窓部の釘止めをしている所をこじ開け(2ケ所)中へホー
         スを入れていた。(日誌N 参照)S−016    農繁期、長雨の時は拘りが強く落ち着かない。土曜日のプールは継続して行ってい
   る。

 (6)平成2年度(担任:白土  軽作業1班)
   6月18日 ブロック会社より電話で「いたずらをしていた。」と報告を受ける。
         前日(日曜日)の早朝にトラックとトラックの間にほうきやスコップ
         つっかい棒のようにしていた。(日誌O 参照)S−017
   9月16日 昨夜(近郊の)養護学校付近にいたとの事で、通りかかった父兄に連
         れてこられている事より)その先の某工務店のトラックやリフトを見
         に行ったとの事であった。(日誌P 参照)S−018
   日曜日の早朝等に有刺鉄線の下からブロック会社に出向く事が多い。同行行為が見
   られた時、楽しみにしているスイミングスクールを中止するようにした。全体的な
   いたずらは減ったが、農具倉庫への拘りが増した。
      
 (7)平成3年度(担任:白土  軽作業1班)
   4月19日 女子職員の車のバンパーの下にビニール袋と広告紙を詰め込んでいる。
           (日誌Q 参照)S−019
   6月19日 朝食後、自室の入り口付近に本人が倒れており、嘔吐物が見られる。
         息が荒く、口がまめらない。布団に移動させた後、顔面に発疹のよう
         なものが出ている。左肩を脱臼しているようであり、脳外科で診察す
         ると脱臼と骨にヒビが入っているとの事。(日誌R参照)S−020
  拘りに対しては対象物が幾分か絞られているが、農具倉庫・職員の車に対して強い拘
  りが見られ、最もいたずら・無断外出の回数が多く見られる。
          発作〜5回  脱臼〜2回

 (8)平成4年度(担任:白土  軽作業1班) 検索
   4月28日 夕食後、特定厨房職員の軽トラックにいたずらしかけた所を職員に見
         見つかる。ゴミが気になった様子。 (検索@ 参照)S−021
   2月15日 てんかん剤投薬開始
  公用車の施錠確認を行っていたが、勝手に鍵を持ち出そうとする事があり打ち切る。
  投薬の効果が大きいのか、全体的に興奮・拘りが弱くなっている。作業では缶つぶし
  を始めた。   (まとめA 参照)S−022
          発作〜2回  脱臼〜2回

 (9)平成5年度(担任:白土  軽作業1班) 検索
   1月13日 養護学校まで無断外出し、止まっていた軽トラックに鉄パイプを乗せ
         せていた。(まとめB 参照)S−023   作業において、つぶした缶を2tトラックで業者に持っていく事で拘りの軽減を図っ
  ていった。ブロック会社や公用車については一度の確認で納得できているが、特定厨
  房職員の軽トラックについては納得いかず、その場を離れようとしない事が多かった。
   (まとめB 参照)S−024     発作、脱臼ともなし

 (10)平成6年度(担任:野村  軽作業1班) 検索
   1月8日 朝、ブロック会社へ行きトラックとトラックを材木やロープでつなぐい
        たずらが見られた。 (検索A 参照)S−025   執着や拘りは見られているものの、その為に起こる激しい興奮や服を噛んで跳びは
  ねる様な行動は目立たず、その場から離れなかったりする事は少なくなっている。
  (まとめC 参照)S−026      発作〜2回  脱臼なし

 (11)平成7年度(担任:野村  和紙班) 検索
   4月2日  夕食前、無断外出している。近郊の養護学校付近で園に戻ってきてい
         いる所を見つけられる。
  本人の持っている執着そのものは無くなっておらず、問題とされる行動も続けて見ら
  れている。  (まとめD 参照)S−028
          発作〜2回  脱臼〜1回

 (12)平成8年度(担任:野村  和紙班) 検索
   9月13日 朝、ブロック会社よりいたずらをしているとの電話がある。材木を並 
         べ、トラックの荷台の部分も全部開けている様子。
        (検索B 参照)S−029    10月28日 フェンスを乗り越えようとして顎を3針縫合する。
         (まとめE 参照)S−030   
  学園生活全般において、なんらかの拘りを常に持っているが日課に利用して次の行動
  へのきっかけを持たせる事と、本人にわかりやすい様に説明する事で随分と柔軟な面
  が見られるようになっている。どうしても気になっている内容は致し方ないようで問
  題行動は続いているが、諦めが早くなった感じも受け、直接的な問題は目立たなくな
  っている。  (まとめF 参照)S−031
          発作〜8回  脱臼はなし

 (13)平成9年度(担任:三宅  和紙班) 検索
   11月3日  ブロック会社で材木やスコップ、ロープやホースなどを使いそれらを
         地面に敷いてつないでいる。道路に2ケ所、筑豊ブロック内に2ケ所と
         広範囲に渡っている。(検索C 参照)S−032
  園内の多数の物への執着の中で、ブロック会社・公用車が特に強く見られていた。11
  月以外は園内の大きな行事がない時に無断外出が多いという傾向が見られる。夕食前 
  後はブロック会社の終業時間と重なる事もあり、夕食拒否が時折見られる。長期帰省
  で母親との散歩の際、場所の制限を初めて聞き入れる場面があったと報告を受ける。
   (まとめG 参照)S−033     発作〜1回  脱臼はなし

(14)平成10年度(担任:三宅  和紙班) 検索
   7月1日  朝礼後に無断外出したとの事。車庫横のフェンスの有刺鉄線を乗り越 
         えて出たようであった。腹部を2ケ所切っている。
       (検索D 参照)S−034
  肩の脱臼が多く見られるようになり、その原因として寝返りの他無断外出でフェンス
  に手を掛ける際に抜ける事がある。その為夜間に脱臼・徘徊防止として眠剤を服用す 
  る。睡眠が深くなった事で、拘りも若干弱くなっている。作業では肩の脱臼防止で缶
  つぶしから和紙原料の計量・ミキサー掛けを行う。(まとめH 参照)S−035
          発作〜1回  脱臼〜12回

(15)平成11年度(担任:三宅  和紙班) 検索
  ブロック会社への拘りは依然として強く見られるが、夕食拒否は昨年度より減少して
  いる。またいたずらの規模が以前より縮小した事は、若干であるが変化といえる。作
  業においては、昨年に引き続き和紙原料の計量・ミキサー掛けを行う。拘りによって
  の波は見られるものの、正確に計量する確立が高くなっている。
   (まとめI 参照)S−036     発作はなし  脱臼〜41回
          
※ 問題行動については、「資料1.園内・外いたずら及び発作・脱臼状況」「資料2.いた
 ずら(含無断外出)場所別状況」グラフ参照。   S−037

6、改善点
 @拘り(自動車・農具倉庫・近郊のブロック会社・日課・職員勤務)
   入所当初は自動車・農具倉庫への拘りが強かったが、平成5年度頃からブロック会
  社への拘りが強くなってきた。日課・職員勤務の拘りは、全体的に見受けられる。ま
  た不特定多数の物を対象として拘っており、入所当初は自動車のマフラーにゴミを入
  れ燃えそうになったり、平成5年度頃からブロック会社の木材・ホースへのいたずら
  など危険を伴うものが見られた。拘り自体は弱くなっていないが、危険性を伴ういた
  ずらが減少しており、ブロック会社へのいたずらの規模も縮小してきている。
A徘徊(無断外出)
   徘徊は年度に関係なく続けて見られる状態で、「@拘り」で記したように平成5度
  からブロック会社へのいたずらが増え、無断外出が多く見られるようになっている。
  しかし、平成9年度以降少しずつ減少傾向になっている。
Bてんかん発作(脱臼)
  発作は初発の平成5年度、平成8年度に多く見られた他は、0〜2回で治まってい 
る。発作の要因としては、その時の拘りが強くなるなど生活状況や成長段階において
起こったものと思われる。その為、精神科医の診察により、投薬により発作・脱臼の
軽減を図っているのが現状である。
 C興奮
   気にしている公用車が動いたり、ブロック会社が残業しフォークリフトやトラック
  が動いている時に、服を噛み飛び跳ねる興奮は依然として見られている。しかし、年々
  少しずつ興奮状態は減少してきており、比較的日課に取り組めるようになっている。

7.改善に至った要因
@ 拘り
拘りに対しては、当初から日課を事前に伝えるなど前もって本人の耳に入れるように配慮した。またエネルギーの発散として、生活や作業の中で散歩・プール・缶つぶしを行い、特に平成5年度からは、作業において2tトラックで業者に持っていく事で拘りをやりがい・楽しみへと移行していった。危険性を伴う事に対しては、14年間職員が一貫して危険性を本人に伝えてきた事は少なからず要因としてあげられると思う。また入所当初はオウム返し程度の言語能力であったのが、平成7年度頃より気になっている事を自ら確認してくるまでに至っており、言語能力の成長も拘りの解消になったと思われる。
A 徘徊(無断外出)
 エネルギー発散を兼ねて散歩で拘っているものを確認してきたが、時折その確認で拘りが強くなり、無断外出へ至る事もあった。また、内面の解消法として公用車の確認簿や作業日誌を書かせた事で、意識付けを図ってきた。
B てんかん発作(脱臼)
 発作に関しては拘りと関係しており、医療との連携で進めている。投薬については 
学園生活を送る上で必要なものと思われるが、今後の必要性については精神科医の診
断により進めていく。肩の脱臼については平成10年9月から頻繁に見られ始め、そ
の都度通院していた。その為専門医より職員が治療方法を習い、重りを肩に吊るすス
ティムソンと、仰向けで肩を0ポジションで入れる2方法で対処している。普通の人よ
り肩の筋肉が柔らかく、脱臼を繰り返す中で抜けやすくなったものと思われる。現在
では無断外出の際、フェンスに手を掛けた時や寝返りなどでも脱臼する状態。通常前
法のスティムソンで10秒〜30秒程で肩が入る事が多い。
C 興奮
興奮の際は、気になっている拘りを職員が把握し、「次は○時になったら確認に一緒に来る」と約束しながら、時間を切っていくようにした。その事で今何を先にするべきかを確認させながら年々日課に取り組めるようにしてきた。また投薬による影響も大きいものと思われる。そういった要因により興奮が少しずつ減ってきた。

8.まとめ
 園内だけであった問題行動が園外へと移り、拘りの対象に変化が見られている。園内では許される事も園外に出ると反社会的行為になる為、危険行為や迷惑のかかる行為への規制は必要と感じる。しかし、園内という狭い社会の中だけで軽減できるかと考えれば疑問である。これまで拘りを解消させる為、朝・夕の散歩でブロック会社や農具倉庫を確認し、その夜・翌朝に無断外出・いたずらに至るケースも多く見られている。そのため、拘りを誘発するのではと思考錯誤しながら対応してきた。そういった中で、拘り自体を社会的貢献できないものか、またその内容が本人の人生にとって楽しみややりがいになるものであろうかと考える。その点で作業という行為に至らなかった入所当初に比べ、缶つぶしを行ったり、計量・ミキサー掛けを行ったりと作品作りに関わるまでになり、自主性さえ芽生えてきた事は本人にとって大きな成長といえる。入所して14年たった現在でも決して安定しているとは言い難い。しかし、作業面での成長や問題行動の規模縮小など少なからず変化は見られている。今後精神科医療と連携を図りながら本人の持っている能力を生かし、更なる可能性を見つけ出す事に力を入れたい。
                                            



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