--- 鷹取学園20周年資料 ---
重度知的障害者の生活習慣の改善
平成12年4月1日
個人別ケースまとめ担当者
指導員 原 裕 人
1 問題であった具体的内容
@ 自傷行為(自分の鼻打ち行為)
A 異性への興味(特定の女子園生に対して居室の連れ込み、陰部を触わる)
B 居室の整理(ロッカー内に段ボール箱を入れ雑巾や靴、ちり紙を多量に持ち込む)
2 入所年月日
昭和56年 4月1日入所 (在園期間 20年)
3 ケース紹介(入所当時 福岡県更生相談所判定書より)
@氏名〜Y・Tさん 男性 昭和31年 4月3日生まれ 43歳
A知的面 IQ 26 MA 2歳 4ヶ月
B生育歴(病歴)
出産時体重2800g
首のすわり 12ヶ月 始歩2歳 始語 6歳 離乳1歳
7歳 H学園入所
25歳 H学園退所
25歳 鷹取学園入所
(入所当初から耳をいじるためか、外耳炎になる。)
C身辺自立状況
ほぼ自立している。
D更生相談所の判定所見
(総合判定) 言語機能障害
3 入所当時の状態
あまり目立った所のない大人しい性格の持ち主で言語コミュニケーションはないが、こちらからの言葉は
理解できる。身辺自立もしており、、特に異常行動も見られず一見問題なさそうであるが頑固な
面があり、本人が受け入れがたい事には強い拒否がある。そのため他園生との些細なトラブルも
ある。また当所より仲の良い男子園生と夜電気を消して何やらしているが、前入所施設の職員の
話では男子寮生活が長いため、男色気があるらしいとのこと。また時折何人かの園生との仲がう
まくいかず、不機嫌になり、時には泣き出すこともあった。趣味は音楽鑑賞で余暇はよくラジカ
セを聞いている。対人関係を自ら持つというわけではなく、一人でいることが多い。
5 経過
●異性への興味について
昭和59年7月後半 女子浴室を離れた場所から覗き見したり、女子1号室、2号室付近
の徘徊があり、その都度みんなの前で注意を繰り返すと恥じて顔を
伏せる。 ケースまとめより 記録者 高松幸一
昭和59年9月7日 立川さんの陰部を服の上から触れる事件がある。職員や翌々日母親
より涙ながら注意を受けるとその後、生真面目で素直な態度が数日
続き、以後性的トラブルは影を潜めている。記録者 高松
昭和60年 物干し場から女子浴室を覗き見する等、夏場(8〜9月)が問題。ま
たS・Nさんなどの男子棟徘徊も要注意であったが重度棟移動後は
問題ない。 ケースまとめより 記録者 高松幸一
昭和60年9月4日(水) 外から女子棟7号室に行き、窓から手を伸ばしA・Kさんにいたず
らしようとする。 男子棟宿直日誌より 記録者 藤本
(資料1 手書き担当者日誌) S―001
昭和62年10月11日(日) 16:00 女子棟で他の男子園生と一緒にE・Nさんの着替えてい
る所を覗く行為がある。両名を会議室に呼び注意する
と反省した様子で泣き出す。 記録者 立木 充
(資料2 手書き担当者日誌)S―002
昭和63年 A・Kさんを居室に連れ込む。
記録者 服部年春
平成元年6月1日(木) 女子風呂に洋服のまま入っている所を女子指導員に見つかり注意
受ける。 記録者 瓜生
(資料3 手書き担当者日誌)S―003
平成4年1月9日(木) 朝から活気なく、声掛けの反応もないが、クラブの時間にE・Nさ
んとの関わりで上機嫌になる。 記録者 白土健司
検索
平成5年9月10日(金) 職員終礼後、重度棟裏でK・Tさんのズボンとパンツを脱がせ触ろ
うとする痴漢行為がある。介助員が目撃し、指導員より注意を受け
る。以後、担任とK・Tさんの担任である女子指導員と一緒に厳重
に注意。 記録者 原裕人
(資料4 担当者日誌及び、93年9月11日宿直日誌)
検索@参照 S―004
平成7年4月14日 余暇中、DRソファーにA・Kさんの隣に座っているが、宿直者の
顔を見るととっさに出て行く。 宿直日誌より記録者 野村祐治
検索
平成7年11月20日 作業中、作業服に着替える際、K・Tさんと二人きりで向かい合っ
て着替えていた様子。男子指導員より注意を受ける。
記録者 川添愛
●自分の鼻打ち行為(自傷行為)について
昭和58年ケースまとめより 4月〜9月まで、性的ないたずらや勝手な行動に対して注意を受
けると自分で鼻柱を叩いて鼻出血を起こしていた。また、普段か
らも鼻出血が多く、学園のちり紙を大量に持ち込んでは鼻をいじ
りまわしていた。
(資料5 昭和58年ケースまとめより)S―005
平成5年7月28日 入浴に応じず、しばらくしてシャワーを浴びるように声掛けするが拒
否があったため、強めに指示をすると鼻柱を叩いて鼻出血を起こ
す。 男子宿直日誌 記録者 高松
検索
平成5年9月11日 K・Tさんのズボンとパンツを脱がせ、触ろうとする行為につい
て担任とK・Tさんの担任である女子指導員より注意を受けると
自分の頭を叩いて反省している様子。翌日もこの件について副園
長より注意を受けると自分の鼻を叩く自傷行為がある。その際に
鼻出血がある。 記録者 原裕人
(資料4 担当者日誌より) S―004
平成6年3月26日 昼食後、歯磨きに応じようとせず、強めに声掛けすると鼻出血の
真似をして横になる。 担当者日誌 記録者 高松
検索A参照 92年7月28日宿直日誌 S―006
検索
平成7年6月22日 歯磨きの磨き直しに強い拒否があり、声掛けするとトイレに走り込
んで鼻を叩き鼻血を出す自傷行為がある。
男子宿直日誌 記録者 野村
検索B参照 94年6月22日宿直日誌 S―007
・職員の注意に対して自分の鼻柱を叩いて鼻出血をさせる。これは自分が悪い事をして反省しているといった面と単に癇癪といった意味合いがあるが、多くの場合が後者の様子。昭和58年入所当初は良く見られているが、翌年以降少なくなり、平成8年以降は現在までほとんど見られていない。
● 整理について(段ボール箱)
平成3年6月14日(金) 自室ロッカーの中に下履き用の靴を直し込んでいる。
担当者日誌 記録者 白土
平成3年7月4日(木) 自室ロッカーの奥に汚れた衣類を直し込んでいる。
担当者日誌 記録者 白土
平成7年4月20日 普段靴を自室ロッカーの段ボール箱に入れている。
担当者日誌 記録者 浜村
検索C参照 94年4月20日担当者日誌 S―009
平成7年12月4日 ロッカー内の段ボール箱に靴を入れているが衣類と一緒に入れず、分け
て整理している事について褒める。
担当者日誌 記録者 浜村
平成8年7月22日 以前は汚れた下靴と新品の靴を一緒に段ボール箱に入れているが汚
れた靴はきちんと下駄箱に直し、ロッカー内は洗濯済みの奇麗な靴だ
けになっている。 担当者日誌 記録者 本田
検索D参照 95年7月22日担当者日誌 S―010
検索
平成9年11月22日 ロッカー整理をした際、ビニール袋の中に私物を入れて何袋か直し
込んでいる。また雑巾も数枚混ざっており不潔な状態。
担当者日誌 記録者 原
検索
平成10年10月29日 私物整理を行なうがビニール袋の中に私物を種類別に分けて収
納している。 担当者日誌 記録者 坂田
検索
平成11年3月31日 ロッカー内の段ボール箱に汚れて破れた靴を入れたままにしている。
その後もうひとつ箱を用意し、私物を分けて収納させる。
担当者日誌 記録者 野村
検索E参照 99年3月31日担当者日誌 S―011
検索
平成11年8月18日 ビニール袋の中に衣類を入れたままにしており、整理させる。
担当者日誌 記録者 野村
平成11年9月5日 ロッカー内に雑巾を20枚程ため込んでおり声掛けで戻させようとす
るが拒否。きちんと説明して理解を求めると3分の2戻す。
担当者日誌 記録者 野村
平成12年1月26日 押し入れ内に雑巾用のコンテナに衣類を積み重ねていたり、バッ
クに古い電池を入れている。本人に確認後、不要分は処分し衣類
はロッカー内に整理する。 担当者日誌 記録者 野村
平成12年3月1日 押し入れ内のコンテナの上に多量に衣類を置いている。
担当者日誌 記録者 野村
・衣類や私物の整理については自分なりの空間の確保と整理方法を持っている。自分に必要な物は保持しておきたいという傾向であろう。入所当初より指導員が指示した事には従わず、自分が収納したい場所に収納し、居室外に置く物(歯ブラシや靴等)も押し入れに入れている。またちり紙や雑巾を多量に持ち込む癖がある。ただ持ち込むのではなく本人なりの使用目的はある様子(主に掃除)日常着用する衣服が好みによりだいたい決まっており新しい衣服は着たがらない傾向にある。着用する衣服が決まっている事でロッカー内は乱れていない。その他下履き用の靴を下駄箱に直す事を嫌い、ロッカーに直す。こういった本人なりの整理方法には問題はあるが私物は自分で決めた場所に直すといった点で自主性はある。私物を収納するのに段ボール箱を利用し(本人が厨房裏から持ってきた物)その中にカセットテープや靴、雑巾、ちり紙を入れている。また衣類はタンス、衣装ケース内に直す事を嫌いロッカー内に積んでいる。こういった本人なりの整理について、現在は型にはまった秩序は強いておらず、尊重しながら、明らかに常識に外れた点については注意を行ない指導している。
6 改善点
@異性への興味について 平成7年度より、女子園生への目立った接触や痴漢行為は全く見ら
れない
A自分の鼻打ち行為(自傷行為) 入所当所以来、昭和58年頃まではよく見られていたが平成5
年以降は年に1〜2回、平成6、7年にそれぞれ一度ずつ見られたのみで以後は全く見られてい
ない。
B 整理について 段ボール箱は入所以来平成11年まで私物整理箱として使用。雑巾、靴、ちり紙の持ち込みは量や回数は年々減少傾向にあるが、続いている。
7 改善に至った要因
●異性への興味について 入所以来、度々女子棟への徘徊や浴室を覗く行為がある。昭和59年K・Tさんへの痴漢行為で職員や母親から涙ながらに注意を受けると、以後生真面目な態度が続き、性的トラブルは影を潜めるが、翌年から女子浴室を覗く行為や女子居室窓から手を伸ばし体を触わろうとする行為、A・Kさんを自室に連れ込む行為がある。平成5年には昭和59年以来2度目のK・Tさんへの痴漢行為があり男女指導員から注意を受けると自分の頭を叩いて反省。以後、職員の監視体制を強め園生に対して全体的に男女の交際及び学園内での接触の場所の確認を行う。学園内の園生同士の意見を聞かせることで個別に会わないよう厳しく注意する。以後は痴漢行為はなく現在に至る。
●自分の鼻打ち行為について 主に職員からの注意に対する癇癪といった意味合いで自分の鼻柱を叩いて鼻出血させる行為であるが、職員の目の前だけではなく、強い口調の注意や指示に従いたくないためその場から逃げて自傷する事もある。きちんと分かりやすく説明したり、しばらく時間を置いて声掛けすることで鼻打ち行為は減少し、現在ではほとんど見られていない。
●整理について ロッカー内の雑巾、ちり紙、靴の持ち込み、私物整理の為の段ボール箱持ち込みは片付け場所を本人なりの意志で決め整理している。自分の生活空間の一部に入り込まれるのを嫌い、職員が手直ししても元の状態に戻るため、本人のやり方を尊重しながら靴の持ち込み等常識に反する面については注意を行なう。入所当所は下着を着替えず、白い下着が汚れていてもなかなか洗濯に出さず、箱に入れたり、出したりして着るという行為が続いていた。現在は汚れ物は洗濯に出すようになった。徐々に雑巾の持ち込みについてもおかしい事を言って聞かせることで持ち込みの枚数は減少。しかししばらくすると枚数が増え再び指摘する繰り返しである。段ボール箱は収納ボックスを替わりに購入すると本人は喜び(検索G参照 99年5月11日)S―013それに私物を収納するようになるが、今度は乾電池を段ボール箱に入れて整理する。箱の事を指摘されるとお菓子の箱を持ち込んでいる。また収納ボックスの上に衣類を多量に重ねている。
8 まとめ
性格的に大人しく従順であり、温和であるが対人交流は少なく、一人で過す事の多いT・Y君。言語に構音障害があり聞き取りにくく、単語的発語であるため、相手にうまく自分の意志が伝わらず誤解されることもあり、対人上のトラブルもある。反面、面倒見の良い所があり同室者には出来ない所を援助してくれる等彼なりの役割や責任感を持っている。頑固な面もあり職員からの私物片づけやちり紙の持ち込み等の指摘に対して応じようとする姿勢はなく、その場から逃げたり、本人なりの整理を行い回避する。こういう頑固さは発語が不明瞭なる上での一部表れであるように思う。
自傷、異性への興味、整理について生活習慣の20年間をまとめ経過を追うと、これらの項目以外の事(性格や学園生活における対人関係、指導員との関係)も含め、集団生活への適応が出来、日々の生活の中で彼と周囲との関係が認め合い変化し成長してきた。また変化の要因の一つには本人は7歳より施設生活を続けてきたという家族から離れた生活が長かった。兄弟が結婚したりで家庭的に本人を家に連れて帰るような状態になった事や長期帰省で家族との絆が深まった。その後よく帰省出来るようになった頃から精神的な安定が確保出来るようになった。この事は問題行動である自傷や異性への痴漢行為の減少に多いに関連していると思う。
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