--- 鷹取学園２０周年資料 ---
全面介助を要する最重度知的障害者の施設処遇
平成12年4月1日
個人別ケースまとめ担当者
指導員 原 裕 人
１ 問題であった具体的内容
@失便
A異食（石ころ、砂、その他）
B奇異な行動（舌を手で触って遊ぶ〜当園では「舌遊び」と呼ぶ）
２ 入所年月日
昭和61年 4月１日入所（在園期間 13年）
３ ケース紹介（入所当時 福岡県更生相談所判定書より）
@氏名Ｉ・Ｔ（男性） 生年月日昭和46年 3月8日生
A知的面 ＩＱ 7未満 ＭＡ １歳 ０ヶ月
B生育歴（病歴）
出産時、肩が引っ掛かり時間が掛かる。泣き声はある。軽い心臓中核欠損症であったが自然閉鎖
する。
出産時体重３０５０ｇ
首のすわり3ヶ月 始歩 2歳8ヶ月 始語 なし
先天的に心臓に失陥、股関節脱臼、斜頚
0歳 風邪を引き九大病院に行き、心臓病が見つかる。斜頚、股関節脱臼の治療を行う。
3ヶ月よりﾍﾞﾙﾄをかけ、1歳5ヶ月までかかる。
1歳6ヶ月 発育の遅れを指摘
2歳 心臓の欠陥は自然閉鎖
4歳 小田学級通級（2年）
6歳 養護学校（小学部）入学 寄宿舎に入所
12歳 養護学校（小学部）卒業
同上 （中学部）入学
14歳 寄宿舎を出て自宅より通学
C家族紹介
父・母
D身辺自立状況
食事はｽﾌﾟｰﾝで食べる。食べこぼしあり。排泄は4時間間隔で誘導。失尿便がある。着脱衣は
ほとんど介助であるが、服はどうにか脱ぐ事も出来る。靴も手を添えると脱げる。
E更生相談所の判定所見
４ 入所当所の状態
生活状況として排泄、食事、衣服の着脱などの日常生活面はほとんど介助を要す。全般に渡り無表情であり、発語がなく意志疎通が困難。好意を持った相手には髪を引く、メガネを取るなどで関わりを持つ。新聞や広告が好きで興味を示し、入所当初は新聞、広告以外にも電話帳に関心を示す。排泄に関して尿意、便意が分からないため自分でトイレに行くことが出来ない。定時排泄を行い、排泄誘導する。うろうろして多動な反面、動作がぎこちなくのろい。食事は自他の区別がなく隣の人のおかずを手掴みで盗食することがしばしばある。その他手を口に入れ舌遊びをする癖がある。
５ 経過
●失便に関して（添付資料は13年間のデータの中より年度別に特筆すべき箇所を記し、並びに排泄に関する要点を記載したものです。）
・昭和61年、62年〜入所当所は排尿に関して1時間毎に失尿したり、定時排泄の時間外にも誘
失尿を繰り返し排尿時間が指定出来ない。排便に関しては、3､4日出なかったりすることが常で
あり、その反面一日に2度失便することもある。失尿、失便の軽減及び尿意、便意の確立の為、
定時排泄誘導を6:30、9:00、10:30、12:30、15:30、18:30、20:00、21:00に実施。誘導間隔が
1時間30分から3時間と一定でない事また便座させるとすぐに立ち上がる等、定着してない部
分が排泄の失敗に繋がっているのではないか。排泄後、ズボンを膝の辺りまで上げる。失便処理
後の下着着用の際、職員の肩に手をかけ、体重をうまく移行させながら足を上げ履く事が出来る。
・昭和63年〜昨年から排泄誘導の時間に変化はない。便座させるとすぐに立ち上がろうとするた
め、便座中は常に側にいて手を持って立ち上がりを防ぐ。１月頃から便座することに抵抗がなく
なったようですぐに立ち上がろうとする事はなく落ち着いてきている。
・平成元年〜ﾄｲﾚの中で立ったまま失便がある。排泄のタイミングを外す事が多いが、6月頃より
軌道に乗り昼食後の排泄の成功率が上がる。（資料１ 平成元年ケースまとめより）Ｓ―００１
失尿、失便については、体調不調時に多い。自宅帰省時に父兄に排泄時の声掛けや状況報告を依
頼し協力を得る。一度父親の手を引っ張ってﾄｲﾚに行こうとしていた様子。両親共々、本人の成
長に感嘆する。
・平成2年〜昨年までの排泄のリズムを参考に日中の定時排泄時間が9:00、11:30、12:30、16:00
に変更。合せてズボン上げを出来る範囲取り組ませる。前期午前の失尿が多い。特に9:30頃で
あった。4､5月の喘息、その後の夏バテ、下痢等体調を崩した年でもあった。10月頃より体調
の回復とともに排泄の失敗も減少。
・平成3年〜排泄誘導時間が6:30、9:15、10:30、12:50、14:00、18:30、20:50と日中の誘導間隔
が1時間30分となる。また家庭でも同じ時間に定時排泄誘導してもらう等協力を依頼。便座は
10分程行う。失敗後も再度便座させると排泄に成功する事がある。この誘導時間により排泄の
タイミングが定着しているが、時折他の園生が本人をﾄｲﾚ誘導し排泄させていた時期もあり、定
時に排泄がなく他の時間に失敗する事もあった。
・平成4年〜昨年同様の時間帯で定時排泄誘導を実施。排泄の失敗が体調不調に関連しているた
め合せて見ている。排泄誘導では手を引いて誘導しなくても後ろからついて来るようになる。
便座後のパンツ、ズボン上げは声掛けで前の部分を持って上げようとする意欲が伺える。
検索
・平成5年〜定時排泄誘導時間は昨年と同じである。失便に関して不快を訴えることがなく、排
便の前兆も定かではないため苦慮する。排尿便に成功した際は誉めると嬉しそうな表情はする。
検索
・平成6年〜昨年同様の設定時間にﾄｲﾚ誘導すると失敗は少ない。排泄の失敗に関しては他の園生
が本人をﾄｲﾚ誘導し排泄させていたため、定時に排泄がなく次回の排泄時間前に失敗するという
ケースがある。
検索
・平成7年〜定時排泄誘導時間を6:30、9:30、11:00、12:30、15:00、16:30、18:30、8:50に設定。
3時間以上間隔を開けないように実施。便座したと同時に排泄を始める事があり自分なりに排泄
を我慢している。普段よりガスが良く出る、急に立ち上がり動き回る、人の顔を覗きこむように
見る等の動作がある場合は便意を感じている様子。そのような場合、ﾄｲﾚ誘導の時間の間隔を短
くし、失敗を防ぐ。（資料２ 平成8年ケースまとめより）Ｓ―００２
検索
・平成8年〜排泄時間は昨年同様に実施。昨年からの本人特有の便意による動作がある為、事前
のﾄｲﾚ誘導を実施出来た。日中から夕方にかけての失便が多く目立つが、これは排便の時間が定
まってきたという証拠ではないだろうか。
検索
・平成9年〜入所当所から平成2年頃まで便座が定着せず、すぐに立ち上がっているが本年度も
このような事がある。排泄がないという本人の意思表示にも受けるが、ご両親の話しでは便器の
前をグルグルと周り間を置いて再び便座させると排泄に成功することが多いとの話しを伺い、同
じ行為を試みる。すると５回に１回の確立出成功するようになる。
（資料３ 平成8年ケースまとめより）Ｓ―００３
検索
・平成１０年〜失便に関して昨年より若干減っている。夏場の尿量が少なく発汗が多い事に関連し
ている。便座後、すぐに立ち上がる事があるため昨年同様に一度立たせて便器の前をグルグル周
り再び便座させることで時折成功する。しかし便座を拒否する事で何度も同行為を繰り返すと自
分の腕を噛んだり、職員の髪を掴んで怒るため時間を置いて再度誘導させる。
検索
・平成１１年〜排便は２日に１回とほぼ確立。便座後すぐに立ち上がる為、昨年同様に間を置いて
再び誘導したり、腹部をさする事で成功率が上がる。本年度、棟及び居室の移動があるが、環境
の変化と失便の関連性はない。排尿に関して１０月〜１２月の起床時、寒い時期の失敗が多い為、
夜間0:00に夜尿起こしを実施。 検索
（過去13年間の失便データグラフを参照）Ｓ―００４
◎排泄ﾁｪｯｸ記録参照（3例紹介）Ｓ―００５、 Ｓ―００６、 Ｓ―００７
● 異食に関して
・ 幼年期よりおもちゃなどを渡しても遊ばずに口に咥えたり、石ころを口に入れたりする。入所当初も地面に座り、辺りの泥、砂、草を手掴みで口に入れる等、食べ物と他の区別が困難で本人にとって食べ物と見間違えるような物は口に入れてしまう傾向がある。食事に関して当園では始め普通のｽﾌﾟｰﾝを使用するが食器内のおかず、食べこぼした物を手掴みで食べている為、全般に渡り食事介助が必要であった。手掴みで食べるという行為については食欲に対する本能的な行為から来るものだがこれは異食と何らかの関連があるのではないか。食事について普通のｽﾌﾟｰﾝから柄の部分に当て枝をした物に変え持ち易くするが、後に柄を木製の握り易い物に改良している。以後、徐々に食べこぼしは減っているが、これは食器の位置も影響がある。異食に関しては以下に記録しているが、食べ物のような物は間違えて口に入れる傾向がある。
昭和61年5月30日 訓練V班作業中、生しいたけを口に入れる。水1リットル、下剤を飲ま
せる。 担当者日誌 記録 浜村
（資料８ 手書き分担当者日誌）Ｓ―００８
昭和61年6月6日 犬走りの所に座っていると目を離した隙に小石（5ﾐﾘ〜1ｾﾝﾁ）を口に入
れている。 担当者日誌 記録 浜村
（資料９ 手書き分担当者日誌）Ｓ―００９
昭和62年11月17日 管理棟に来て椎茸干し、ﾋﾞﾆｰﾙﾎｰｽの切れ端、ﾄﾞﾗｲﾌﾗﾜｰ等を食べている。
担当者日誌 記録 浜村
（資料１０ 手書き分担当者日誌）Ｓ―０１０
平成元年6月23日 重度棟ﾃﾞｨｰﾙｰﾑにて鉛筆のカスを一口食べた跡がある。
担当者日誌 記録 松尾
（資料１１ 手書き分担当者日誌）Ｓ―０１１
平成5年12月16日 夕べの会でﾃﾚﾋﾞのリモコンやちり紙を口に入れる行為がある。
担当者日誌より 記録 野村
平成6年7月10日 パイプ（枕の中に入っているﾌﾟﾗｽﾁｯｸ製の直径7ミリ程度の穴が開いた
物）を口に入れている。以下「パイプ」という表現を用いる。
指導日誌より 記録 白土
（検索A参照 93年7月10日指導日誌 ）Ｓ―０１３
平成6年7月27日 マッチングの訓練とし棒さしに大きなｳｯﾄﾞﾋﾞｰｽﾞを行う。そのビーズを
2個口に入れている。 指導日誌より 記録 高松
（検索@参照 93年7月27日指導日誌 ）Ｓ―０１２
平成8年7月17日 床に転がっているパイプを口に入れる。
指導日誌より 記録 本田
平成8年11月27日 パイプを口に入れる
指導日誌より 記録 原
平成9年2月25日 歯磨き後、パイプの入れ物に使用している洗面器を口に持っていく
。 指導日誌より 記録 田畑
平成9年2月27日 パイプを口に入れる。
指導日誌より 記録 原
６ 改善点
@失便 入所当所は排便が３，４日ない事が常であり、便座する事にも抵抗があるが、昭和63
年以降より便座は慣れてくる。平成元年以降、定時排泄が定着し失敗が少なくなる。定
時排泄は入所以来、2時間30分毎に誘導。平成3年以降は1時間30分毎の誘導する
ことで定着。平成8年以降は日中から夕方にかけての失便が多い。
A異食 入所以来、周囲にある物、例えば生椎茸やﾄﾞﾗｲﾌﾗﾜｰ、石ころを口に入れるが食べる事は
ない。平成5年以降は機能班で使用していた枕のﾊﾟｲﾌﾟを食べる事が度々ある。
７ 改善に至った要因
@失便 定時排泄誘導を2時間30分から1時間30分間隔に実施したことで排泄が更に定着し
た。また本人特有の人の顔を覗き込む、うろうろし多動になるといった事が便意である
ことが分かり、事前に誘導出来た事で失敗の軽減に繋がった。
A異食 入浴当初から平成元年程までは生椎茸や石ころ、ゴム、ﾄﾞﾗｲﾌﾗﾜｰ等を口に入れていた
が、以降は見られなくなる。要因はこのような物がある場所に行かなくなった事や片づ
けた事が上げられる。平成5年以降は機能班で使用していた枕のﾊﾟｲﾌﾟを口に運ぶ事が
何度もある。ﾊﾟｲﾌﾟの使用を止め片づけるとなくなり、代わりの物を口に運ぶ事もない。
いずれの異物も口に入れるが食べる事はない。
８ まとめ
尿意、便意の確立を目指した定時排泄誘導、食事の食べこぼしを防ぐ為のｽﾌﾟｰﾝ、おぼんの使用、一部着脱衣介助を要する等々日常生活面ではほぼ介助を要す。本人の状況及び性格行動としては言語がなく会話の理解が困難、相手の対処の仕方により笑顔が出たり、怖がったり、髪を引いたりといった動作があるが全体的に無表情である。眼鏡をかけている人を見ると笑顔で近づいて眼鏡を取ろうとする。（眼鏡をかけている人を見ると父親と思う様子）食べ物の区別が困難なため異食がある。
身辺未自立で当学園においては最重度であり、ほぼ全面介助を要す。身体面では心臓肥大による気管支圧迫があり喘息のような症状があり体力的にやや劣る。このような状況から保護的な意味合いが強いが昭和61年入所以降13年間の集団生活を経てわずかな変化ではあるが食事のｽﾌﾟｰﾝの使用がうまくなり、日々の日課での移動場所を覚え、少しの物音にビクビクしていた臆病な性格の彼が心を許す相手が出来、喜怒哀楽を表現するようになった。全面介助を要する最重度者でも彼自身への日々の働きかけを繰り返す事で日常生活面及び情緒面での成長があり、これは彼と周囲の環境との相互の働きかけによる事の証ではないだろうか。今後も彼自身の人生がより良い物とする為にも健康で充実した生活を営む事が出来るよう援助したい。
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