--- 鷹取学園20周年資料 ---
ア ロ エ 班
担当責任者 野 村 祐 治
1.班の成り立ちと経過
健康食品を通じて地域の方々に喜んでもらえるようにと、キダチアロエを栽培・加工し、製品作りに取り組み始めたのは今から12年前の昭和63年度のことです。そもそも、近くのアロエエキスを製造販売していた業者の方が事業を取り止めることになり、旧来のお客さんのことも考えて誰かに譲りたいとの意向から、キダチアロエを相当量譲り受けたのが始りです。「アロエは古くから民間薬草として多くの人に親しまれ、現代医薬のような速効性はないものの副作用はなく、使った人から喜ばれるので、園生が気長に取り組む作業としては適しているのでは」との話があったからです。
アロエ作業と言っても、きちんとした工程が初めから確立されていたわけではなく、職員もアロエについての知識は全くの素人で、一つ一つ手探りからのスタートでした。いろいろと検討する中で、静岡県の伊豆でアロエ製品作りが活発に行われているということで、視察研修に行きアロエエキスよりも粉末の方が便利であることがわかり、粉末作りを中心とした作業に取り掛かりました。当初はすべて手作り工程から始め、各自の適性や能力に応じた役割分担を決めて行っていましたが、その後流れ作業の形態を取り入れました。一連の流れ作業からお互いが協力して一つのものを完成させる喜びや自信といったものが体得でき、集団参加と協調性を引出すことに大きな効果をもたらしました。徐々に軌道に乗るとスライス機・乾燥機・粉砕機・分包機などを購入して機械化を進め、よりスムーズな製品作りができる環境が整いましたが、メンバーの能力差に応じた木目細やかな個別指導が十分にできないという問題点が出てきました。しかし、平成7年度より「作業・訓練」と「生活域」をはっきりと区分するという指導体制が組まれ、各園生が自分の力を十分に発揮できるような環境の整備や日課への配慮が整い、メンバーもアロエの作業に向いていると思われる人を選抜し、6名という小グループ化を図って作業に集中できるようになったことで、仕事に対しての意欲、持続性、確実性が身に付いて生活面でも良い結果が現れてきました。
アロエ栽培についてはビニールハウスを増設し大切に育てていましたが、台風で倒壊してしまうという被害を受け自然の猛威にガックリと肩を落としたこともありました。しかし、そこは皆の持ち前の明るさで何とか乗り越え、アロエも自然の光を充分に浴びて園生と共に大きく育っています。
できあがった製品は学園に直接求めに来て頂いたり、地域の催事で頒布したことにより口コミでどんどん広がり、近隣の方はもちろん、県外からも注文があり送付するまでに至っています。
2.作業主旨・目的
@キダチアロエの栽培・管理等の屋外作業と、Aアロエの生葉を加工して健康食品を生産する屋内作業の2分野を通じて各園生がそれぞれの役割を自覚し、またその作業を責任持ってやり遂げることで自分達が製品を作っているという喜びや自信が体得でき、それが情緒の安定につながり、学園生活が充実できるように配慮しています。また、皆が力を合わせて作ったアロエ製品を少しでも多くの方々に利用して頂き、さらには喜んで頂けることが大きな励みになっています。これからもアロエ作業を通じて充実感のある人生を送れるよう“自然と地域との、おおらかなおつきあい”をテーマとして素敵な試みに挑戦していきたいと考えています。
3.メンバー構成 平成12年4月1日現在
園 生
性 別
年 齢
I Q
知能指数
M A
精神年齢
判 定
その他の障害
O・T
男
24
22
3歳 7ヶ月
重度
非定形型精神病
T・M
男
38
35
5歳 8ヶ月
重度
心臓奇形・脳性麻痺
Y・T
男
39
33
5歳10ヶ月
重度
ダウン症・白内障
O・M
女
34
23
4歳 2ヶ月
重度
チック症
K・N
女
37
30
4歳10ヶ月
重度
ダウン症・眼球振とう
T・S
女
55
28
4歳 6ヶ月
重度
聴力障害
4.作業内容・工程
アロエの加工は収穫から製品の完成まで大きく分けて10工程ありますが、重度の園生でも解りやすいように作業工程を細分化し、個々の適性や能力に応じた役割分担を設定して流れ作業の形態をとっています。
@収穫・生葉むしり・ ・ ・ ・ (T・M君、Y・T君、O・T君、T・Sさん)
職員が切り取ったアロエの株を運搬し、下の葉から一枚ずつ丁寧に剥がして収穫カゴに入る。
Aヘタ切り・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (T・Sさん、K・Nさん、職員)
葉の上下の使わない部分を包丁で切り取る。
B葉洗い(殺菌)・ ・ ・ ・ ・ (全員)
3段階に分けて丁寧に水洗いをした後、殺菌処理を行い再度1回洗う。
C葉スライス・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (Y・T君、T・M君、職員)
スライス機を使用し葉を厚さ5ミリにスライスする。その葉を乾燥機に入れるエビラ(棚)の上に均
一に広げる。
D乾燥
椎茸用の乾燥機で60℃に設定し、7〜8時間乾燥させる。
E粉末つくり・計量・ ・ ・ ・ ・ (T・M君、K・Nさん)
乾燥葉を粉砕機で微粉にし、電子天秤で20,00gに計量。
F分包つくり・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (T・M君)
20gの粉末を30包に分割する分包機を操作する。
Gスタンプ押し・ ・ ・ ・ ・ ・ (T・Sさん、K・Nさん、Y・T君)
30包綴りの分包紙の不要な分を切り取り、その後1包ずつにスタンプを押す。
H分包切り・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (O・T君)
30包綴りの分包紙をハサミで2包ずつに切り取り、15枚の数量をチェックす
る。
Iパック詰め・ ・ ・ ・ ・ ・ (K・Nさん、Y・T君)
15枚の分包紙をチャック付のビニールパックに入れ、チャック部分を確実に
締める。
5.作品紹介
○ アロエ100%粉末 (30包入 1パック ¥700)
○ アロエ100%乾燥葉 (40g入 1パック ¥400)
○ アロエウーロン茶 (150g入 1パック ¥500)
○ アロエ鉢植え (1株植え 1鉢 ¥400)
6.班の資料
年度
作業内容
園生数(男・女)
担当職員
備考
昭和63年度
アロエ栽培・アロエ健康食品加工
3
2
浜村
平成 1年度
同 上
3
3
浜村・松尾
平成 2年度
同 上
3
4
浜村・山内
平成 3年度
同上・鉢植えつくり
5
4
野村・高橋
平成 4年度
同 上
5
4
野村・高橋
台風でハウス1棟崩壊
平成 5年度
同上・アロエウーロン茶つくり
5
4
野村・平田
台風でハウス2棟崩壊
平成 6年度
同 上
6
6
野村・三宅・平田
屋内・外グループ分け
平成 7年度
同 上
3
3
野村・川添
ホーム体制導入
平成 8年度
同 上
3
3
野村・川添
グァーグァー市場搬入
平成 9年度
同 上
3
3
野村・谷口
平成10年度
同 上
3
3
野村・田邉
平成11年度
同 上
3
3
野村・保坂
平成12年度
同 上
3
3
野村・杉本
7.班のあゆみ
昭和63年度
当初の計画はアロエエキスを生産する予定でしたが、粉末の方が使用方法・保存方法などで優れているという事でアロエ粉末つくりに計画を変更。先ず原料となるキダチアロエが足りない為、畑つくりから始めました。同時にアロエ粉末を全て手づくりで試作して、各工程に合わせて園生の振り分けを実施しましたが、園生も作業に慣れていなかった為、かなり職員に手伝って頂きました。
10月にはアロエ作業室も完成し、スライス機・粉砕機・乾燥機といった機械を導入して本格的生産を始めています。作業工程の変更の中でアロエと親しんだ1年でした。
平成1年度
前年度は機械もなく、天日でスライスした生葉を乾燥させ、すり鉢で粉末にするといった状態でしたが、機械の導入で作業能力も上がっています。2年目という事でそれぞれの役割分担も決まり、スムーズに生産ができるようになりました。作品の頒布についても郵送での注文が増え、送付担当の園生の励みにも繋がりました。
平成2年度
班の園生に新メンバーが参加するようになり、経験者と未経験者の融合を図りながら作業の流れ作りが課題となりました。当初はうまく噛み合わない部分がありましたが、年度の後半には皆の息が一つになり自然の流れの中で作業に取り組まれるようになりました。作業に対しての自信が意欲に繋がっています。
平成3年度
アロエ班開設以来、頑張ってこられた浜村先生にかわり、私(野村)と新入職員が担当する事になりました。アロエの事は全くといっていい程知識がなく、4月の中旬には静岡県の南伊豆にあるアロエセンターや西伊豆の加工所に視察研修に行かせて頂きました。アロエ栽培・管理方法や加工段階での衛生面への配慮などを学び、アロエ室の整備・整頓から始め健康食品を生産加工しているという点を重視し、衛生面の充実を図りました。各作業工程での補助具も作成し、作業に対しての意欲の向上を目指しました。
平成4年度
鉢植えの管理や育苗用のビニールハウス1棟が8月の台風で全壊するという被害があり、栽培計画が若干変更になりましたが、粉末の頒布については、今までの保護者の協力に頼っていた面から「直方公論」の広告掲載の反響もあって、学園に直接買いに来られる一般の方が増えました。学園を身近に知って頂くという地域交流やアロエ班が少なからず社会に貢献できるようになった第一歩の年でした。
粉末のパック(包装紙)についてもアロエのイラスト入りシールを作成し、見た目はもとより清潔感も感じられるようになり、ある程度社会に通用する製品ができるようになっています。
平成5年度
前年度に続き、この年も8月の台風でビニールハウスが2棟も全壊してしまいガックリ肩を落としました。しかし、自然の猛威にも負けない園生の笑顔に助けられ、ハウスも新たに建て直し良質なアロエの栽培に取り組みました。また、加工用のキダチアロエのみでなく、アロエの宣伝効果や見学者の目を楽しませる内容として、様々なアロエの種類を収集し観賞用のハウスづくりに取り組んだり、新たな作品としてアロエウーロン茶づくりにも挑戦しだしました。
平成6年度
新たな取り組みとして屋内作業中心のAグループと屋外作業中心のBグループという体制を取りいれた年でした。園生12名・職員3名という大所帯になり戸惑う面も多かった年でもありましたが、職員の勤務体制変更(隔週々休2日)の影響もなく、アロエ栽培ではかなり充実できました。
班のメンバーが増えた事もあり、屋内作業用の作業着を新調したり、作業机も真っ白な清潔感のある物に変更。何よりも長年苦労していた冬期の生葉洗い、冷たい水を温める為のお湯汲みが不要になったガス給湯機の設置など、環境面の充実が図れ園生もたいへん喜び作業に意欲が出ました。
平成7年度
ノーマライゼーションの理念を元に、ホーム体制を導入した年であり、班のメンバーや日課の変更が著しく、園生・職員ともに戸惑いながらのスタートでした。しかし、長年の課題であった「各役割分担においての技術の向上」「ワンランク上へのステップアップ」という作業指導を行う上での環境が整い、今まで以上に個別化した処遇ができるようになりました。
平成8年度
ホーム体制導入に伴う日課の変更にも随分と慣れ、よりスムーズな作業への取り組みが定着しました。新たな内容として「しんNewグァーグァー市場」でも粉末を頒布するようになったり、「福智山ろく花公園」では鉢植えを販売するようになり、毎月1〜2回の公用車で外出する作品搬入がとても楽しみとなり、社会参加の一つとして作業への大きな励みとなりました。また、6月には観賞用の温室がアロエ室前に完成し、来園者の目を楽しませる事ができるようになりました。
平成9年度
5月の運動会後より、作業班の入浴時間帯が昼間から夜間に変更になったことで余裕が持て、作業を急がす場面もなく落ち着いて、楽しく作業に取り組まれるようになりました。また、6月の1ヶ月間担当者の一人である私(野村)が秩父学園の研修で不在となり、女子指導員1名で大丈夫だろうかという不安な面が残りましたが、園生が充分にその事を理解でき努力してくれた事は大きな成長だったと思われます。また、郵便送付分の売上が予想以上に伸び、嬉しい悲鳴をあげるような状態でしたが、郵便番号が7桁に変更になったり、郵便料金の値下げなど送付担当の○○さんにとっては忙しい年となりました。
平成10年度
班も11年目に入り、機械類の故障が目立ち始め年期を感じだしましたものの、新しいエアコンが設置され快適でより衛生的な環境も整いました。同時にベテランとなった園生の中には若干「高齢化」という問題も生じ、社会的自立を目標とする作業ではなく、老化による機能低下防止の為の作業療法的な要素と、何よりも楽しく学園生活が送れるようにという「生きがい対策」として作業指導を位置づけていく必要を感じました。
売上は過去最高となり、アロエ班が地域や社会に対して貢献できているという事が感じられました。
平成11年度(最後に)
売上だけを見れば少し下がっていますが、何よりも計画通りに作業が実施できるようになった事は、園生がそれぞれの役割分担をはっきりと自覚し、責任を持ってやり遂げる事ができたという面では大きな成果だと思われます。今年は体力的な面を考慮しメンバーに変更があっています。今後とも「老化」という問題は避けて通れないと思われます。これからもアロエ作業を通じて充実感が味わえるように支援し続けたいと考えています。
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