--- 鷹取学園20周年資料 ---
「重度知的障害者の体育指導」
〜歩行訓練の導入とその展開〜
社会福祉法人 福智の里
重度知的障害者(入所)更生施設 鷹取学園
福岡県直方市大字下境字鬼ケ坂336−11
TEL 0949−24−6622
FAX 0949−24−8333
鷹取学園における体育指導の内容
(平成11年度 九州地区知的障害関係施設研修大会 発表時資料)
1 始めに
今回発表の知的障害の対象者が、どの程度の人達であるのかを先ず念頭において頂きたい。76名の重度知的障害を持っている人達が対象であること。平均IQ約18、平均年齢35歳の人達の体育を前提としている。
分科会の主テーマが「施設における豊かな生活」であり、研究課題の「QOLの向上と環境作り」となっており、発表内容の「重度知的障害者の体育指導」 〜歩行訓練の導入とその展開〜というタイトルが、一見何となくかけ離れていると感じる方もおられる事と思う。
重度知的障害を持つ人たちの生活状況からすれば、生活の中に体育を取り込んでいることの珍しさと、取り組んでおられるところがあるにしても、「何となくやって来た」という程度の取り組みが多いと思う。
体育の専門家から見た専門的な見方、考えに基づいた現在の取り組みの実態を報告したい。
日常生活の中で定期的に実施する歩行訓練は、重度者にとって、正に、「施設における豊かな生活」の一部となり、内容的にも研究課題の「QOLの向上と環境作り」という事に当てはまるものと解釈し、この度、発表の場を頂くようになった。発表の内容をお聞き頂ければ、何が「環境作り」になっているかがはっきりとお分かりの事と思う。
2 情緒安定が図られ、生活環境に幅が生じた
発表タイトルの「重度知的障害者の体育指導」が、分科会主テーマの「施設における豊かな生活」と、研究課題の「QOLの向上と環境作り」について、どの様に関係があるのかの説明を先にしておきたい。
「施設における豊かな生活」と言う場合、重度知的障害者にはなかなかこの言葉がしっくり来ない。なぜならば重度者の施設と聞けば、始めから暗く、重っ苦しい雰囲気になり、豊かな生活と言ったイメージに結びつかないと思う。
当園の場合は、開所当初の昭和56年5月より、月平均1回程度の割合で社会参加訓練のために町に出掛けている。重度施設であるからといって、決して閉じこもることはして来なかった。重度者を抱えている園としては、まれな特徴の一つといえる。
その様な体制の中で、更に歩行訓練という時間を利用し、園外に出て行く機会を増やした。
園周歩行から始まり、現在は別添追加資料「園外歩行、行先一覧表〔図参照〕」の様に車で移動し、少し離れた公園や公共の遊歩道といった場所で、3〜5Kmの歩行訓練を行っている。
彼らにとっては、車に乗って園外に出かける機会が増え、素晴らしい環境の中で歩行訓練ができることは嬉しい限りであり、情緒的にますます安定した。
新しい場所を開拓したという一つの自信が、次々と更なる新しい歩行訓練の場所を広めていった。行動範囲(生活空間)を広め、且つ新しい環境に順応できている事の意義を抜きにしては、今回の発表が無に等しくなる為、「体育指導と情緒安定」の関係を説明させて頂いた。
3 体育専門の職員がなぜ必要なのか
当園は、最重度の知的障害を持った人が多く、本人達自身では体を動かすことが少ないため、処遇体制として学園生活をする中で入所者自体が、自然に体を動かすような状況をできるだけ作るように当初から取り組んできた。また、重度者には肥満的傾向にある人が多いために、これまでも肥満対策に力を入れてきた。この流れからも体育は必要であった。
昭和53年当時の北欧やヨーロッパの知的障害者福祉部門には、その当時から障害者に対する専門の体育担当者がスタッフの中に組み入れられており、それに倣い、昭和56年の開園以来、ラジオ体操のような全員でできる運動と、班別編成を行うに当たり、それなりの体力別集団に分かれているため、班別単位での体育を試みて来た。
全体的な運動としては、ラジオ体操から始めた訳だが、重度の人たちには難しすぎる動作が多いため、指導員が独自で考えた「リズム体操」をしばらく行った。
しかし、これも全体的な形には波及せず、これもある程度、理解できる対象者に限られる結果となった。その後、年月の経過と共に職員の入れ替わりもあり、また、従来からのラジオ体操に戻った。
各班ごとに行う運動も、始めは班毎の組み合わせで、走る、投げるといった運動を取り入れていたが、班担当者に任せる形になり、次第に作業の方に力が入れられ、体育の時間を取ることがおろそかになる傾向を呈した。運動をしているのかどうか分からないといった状態に傾いていた。
平成6年度から体育専門の有田先生に来ていただくこととなった。
体育の時間を週課の中に設定できた事の意味は大きかった。入所者にとっては1週間に1回の体育の時間ではあってもその意味は大きい。現在は、全体的な運動として「ストレッチ運動」を導入している。また、班毎の体力に応じた運動として「歩行訓練」をグループ別に開始した。その結果の意味するところは、本日の発表内容から充分ご理解頂けると思う。
4 具体的に、何が変わったのか
体育専門の先生により、定期的に体育を実施してきたことによって、具体的に変わってきたことがある。入所者本人達の「体力を維持する。体力の増進を図る」ということの他に、先ず、指導員側の「体育に関する意識」が変化して来たといえる。体育をさせるための準備段階の取り組みから、重度の入所者を参加させる為に、体操服に着替えさせ、集合時間までに集合場所に集める。そして、始まる前の挨拶、実施内容の説明、それから具体的な体育の実行に移る。歩行訓練においては、一般の道路を通るため、危険性に対する配慮が必要となる。この様なことは、常識的には当たり前といえば当たり前のことではあるが、実際に重度の知的障害を持った人達の集団行動は大変難しくでき辛い。当たり前のことを実行することが難しいのが知的障害者の特徴である。 このことは、知的障害関係に携わっておられる方なら充分にご理解頂けると思う。
平成6年度から、今日までに至る経過から、秩序だった体育の体制がそれなりに確立できたといえる。信号機で止まる。道路の中央に出ない。交通している車に対する注意がそれなりに理解され、完全ではないにしてもそれなりの対応ができるようになった。単なる体育と考えればそれだけかも知れないが、真剣に取り組めば取り組むほど、いろいろな生活面に関連して来ることが分かる。
発表の本題で述べる実践内容から、重度知的障害を持つ人達にどれほどの活動の幅が広がったのかが理解できると思う。「QOLの向上」につながり、今までに体験しえなかった、新しい「環境作り」開拓に結びついたことに対する評価は大きい。
鷹取学園における体育の具体的な内容
体育指導嘱託職員 有田 司
添付資料 No1 さあ歩こう
添付資料 No2 ストレッチ体操
添付資料 No3 体育指導計画とその指導
(各班構成の内訳) 機能班 〜 機能回復指導班
軽作業班 〜 染色班、和紙班、ピンチホルダー班、手工芸班
作業班 〜 アロエ班、農耕班、陶芸班、園芸班
T. 機能班体育指導内容
園生9名〈男-5 女-4〉、指導員4名
IQ 6〜19、 平均IQ 10、 年齢28〜58才、平均年齢34才
@実施のねらい
歩行により心身の活性化を促し、自然とのふれあいを大切にしながら、身体の持久性を
高め、集団行動能力を養う。また、公道を利用しての歩行については、交通ルールを理解さ
せ、安全行動能力の開発に努める。室内に於ける活動については、身体の柔軟性を高め、身
体支配の能力を養う。
A園外歩行の主な目的地(園外T・別図参照)
公用車で片道15〜25分の範囲
10:00出発 11:20帰園
往20分ー歩行40分ー復20分
B学園周辺歩行の場合(園外U)
Bコース〜 3km、 Cコース〜2km、 出発、帰園時間は園外歩行と同じ。
C雨天の場合
レストルーム(ミニ体育館)で、マット運動、ボール遊び、リズム運動を実施。
D歩行訓練時の留意点
1. 出発時、帰園時の点呼、健康観察及びトイレ指導。
2. 緊急時に於ける携帯電話とトランシーバー持参。
3. 必要に応じて水筒、救急バッグを携行。
4. 公衆トイレの利用できる場所。
*以上の留意点は、軽作業班、作業班も同じ。
U. 軽作業班体育指導内容
園生41名〈男-22、女-19〉、指導員8名
IQ 8〜35、 平均IQ 18、 年齢19〜59才、平均年齢34才
@実施のねらい
従来からのA、B、Cコースの歩行は限られた内容の為、もう少し園生に自然の中を歩
く機会を多く与え、一般歩行者とのふれあいを大切にし、楽しく歩行することにより、身体
の持久性を高める。また、公道での道路 交通法に基づく指導を行い、信号機の識別、右側、
左側の判断能力を向上させ、集団的行動が出来るよう配慮する。
A園外歩行の主な目的地(園外T・別図参照)
公用車で片道15〜25分の範囲
10:00出発 11:20帰園
往20分ー歩行40分ー復20分
B学園周辺歩行の場合(園外U)
Aコース〜 4km、 Bコース〜3km、 Cコース〜 2km
出発、帰園時間は園外歩行と同じ
C雨天の場合 … マット運動を中心に行う。
D歩行訓練時の留意点 … 機能班に同じ。
V. 作業班体育指導内容
園生25名〈男-16、女-9〉、指導員9名
IQ12〜38、 平均IQ 24、 年齢20〜55才、 平均年齢37才
@実施のねらい
健康で安全な生活の基本は歩行能力にある。本年グループ分けが見直され、園芸班の加入で
25名になったが、今年も園外で自然に親しみ歩くという機会を与え、一般歩行者とのふれ
あいの場を大切にし、挨拶の指導を含めて楽しい歩行訓練となるよう指導内容を計画する。
また、公道での交通ルールを理解させ、安全行動の能力 を高め、集団の一員として、集団
行動能力を開発する。
A園外歩行の主な目的地(園外・・別図参照)
公用車で片道30〜35分の範囲
13:00出発 15:10帰園
往30分ー歩行70分ー復30分
(休憩10分)
B学園周辺歩行の場合(園外・)
学園正門から直接、歩行する。約5〜6Km。出発、帰園時間は園外歩行と同じ。
C雨天の場合 … ソフトバレー、マット運動。
D歩行訓練時の留意点 … 機能班に同じ。
Y. その他
現地での工夫を要する点
同じ班の園生の中にも、速歩、遅歩の差があり、現地でAグループ、Bグループと分けて
歩行することもある。隊列が乱れないよう、また、安全確保の為、先頭、中間、後尾に職員
が張り付く必要があるが、何らかの理由で隊列が乱れた際の職員の気配り、対応が重要なポ
イントになる。
(略 歴)
鷹取学園 体育指導嘱託職員 有田 司
・S30.日本体育大学卒業 特技は陸上競技
・公立高校38年間勤務
教科は保健体育
部活動は陸上競技部顧問
・在勤中、インターハイに18回引率
・日本陸上競技連盟公認終身1種審判員
(鷹取学園で体育を指導するようになった経緯)
退職後、面識のあった当園の施設長より、鷹取学園で体育をやってくれないかとの相
談を受け、重度知的障害者にどのような体育を行ったらよいか、少々迷いましたが、
体育の時間を設けることで、園生の生活にけじめをつけさせたい、衣服の更衣から全
集合して挨拶をして、身体運動をいろいろとさせてもらいたいというような内容で、
体育指導をお引き受け致しました。
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