--- 鷹取学園20周年資料 ---
処遇現場でのパソコン活用の成果 副園長 紙野文明
始めに
1992年(平成4年)度より、処遇現場へパソコンを導入して平成12年度で8年目を迎えることになりました。
当園のパソコンに関する紹介は、月刊「AIGO」1996年(平成8年)2月号のレポート欄で、「処遇現場におけるパソコン活用」として掲載されたとおりです。
当時と違い現在は機械の方が高性能になり、スピードも早く、データ量も膨大にストックでき処理も早くなっています。
おまけに、当時夢のように思われていた、日誌への写真取り込み等はごく日常的に可能になりました。
今回は、平成4年からの処遇現場でなされてきたパソコンの活用結果がどのように生かされているかについて触れたいと思います。
加えて、当園で何のためにパソコンを導入しなくてはならなかったかについて再度触れておきたいと思います。
(1)処遇現場にコンピューターを導入
「何故、処遇現場にパソコン導入が必要であったか」については、当時から定員76名の園生中、1名の中度者を除き、残りの全員が重度または最重度の知的障害を持つ人達を処遇する施設であったことが前提にあります。ちなみに76名の平均IQは現在では20を下回っています。
強度行動障害者と呼ばれる対象者が多く、この人達の状態把握は、通常の知的障害児・者施設のように、担当者中心の関わりと判断では、どうしても対応できませんでした。
園の責任者である施設長ほか、処遇担当責任者は園生の生活がどの様になっていて、実際にどの様な変化があっているのかを的確に把握しなければなりませんでした。
手書き書類の範囲では、知りたい時に知りたい情報をすぐに手に入れるという訳にはいきません。各担当職員の持っている書類を、あちこちから寄せ集めるという方法しかありませんでした。
それでは対応が間に合わないわけです。記録の終わったその日迄のデータが、必要に応じてすぐに活用でき、確実な判断で対処できるようにしなければならないわけです。
このような事情がパソコンの必要性を生み、処遇現場にパソコンを導入する結果となりました。
(2)何のデータが必要だったか。
単にパソコンを導入するとはいっても機械を購入すれば済むという事ではありません。施設の必要性に応じてコンピュータを役立てなければパソコンの意味はない。その為には、当園専用のシステムソフトが必要でした。
当園では、データ集めの方法としては日誌記録の内容を活用するために、以下の点に焦点を当てる事にしました。
@ 実際にどんな内容を記録して行くのか。
A データとしてどんな事が必要なのか。
B 何を目的として入力するか。
C 入力したデータをどの様に活用するのか。
コンピュータと一般的に言われるが、「コンピュートする」とは「計算する」と言う意味で、パソコンはもともと数字処理が主体であり、数値や顧客管理等に利用されています。当園のソフトの特徴としては、数値の管理のみにとどまらず、日常の生活内容や生活行動を把握する事を重視しているために、言葉自体をデータにしたものであり、文章がデータベースとなっています。検索方法もワープロ的に語句で引き出す事ができるソフトです。
(3)日誌の種類と活用
日誌は6種類で、指導員・看護婦が自分に関係した時間帯での処遇内容を記録するようにしています。日誌の種類としては
1、担当者日誌
2、指導日誌
3、週番日誌
4、日勤日誌
5、宿直日誌
6、看護日誌
以上、6日誌から成り立っています。
どの作業・訓練班も、またどのクラスの担当職員も一人一台迄はいかないにしても、一斉にパソコン入力できる体制になった事で記録時間を短縮できるようになっています。
主として小型で場所を取らず、持ち運びができるノートブック型パソコンが主流を占めています。
職員32名中、パソコンを打たないのは調理職員と介助員のみです。
入力時間も、すべて勤務時間内に入っており、日誌の記録時間は16:50〜17:00までの10分間となっています。
手書きの時代では、記録をしないまま帰宅したり、月締めの提出日迄には完了せず、書類提出に何日もかかるといった事が多かったのですが、今は他の職員の記録がなければ個人分の「ケース記録」が完成しないこともあって、全員がその日のうちに入力を済ませるようになっています。
日誌記録に重点を置いた背景は、記録する内容を報告書として纏めて提出させると、纏めの途中で記録者個人の考え方のみが先走った表現方法になる場合が多い。これでは、実態が伝わらず、判断に誤りを生じることになります。
こういった事態を防ぐため、できる限り記録する本人の伝えたい事実内容や感情表現を壊さず、リアルなままの記録を個人ケースに取り入れる事が望ましい。そこで、処遇にあたった職員が記録する日誌内容をそのまま利用することで、施設園生76名の個人分ケース記録の纏めができ、しかも、さまざまな処遇の問題点となる部分や目標となる部分のデータを、一挙に資料として作りあげます。具体的に言えば、看護記録と生活記録及び作業・訓練記録とのデータを一体化できるため、相互の関係が良く分かります。このようなパソコン利用方法があることをぜひ知って頂きたいのです。データはすぐさま印刷し、会議にはすぐさま活用できます。
簡単に説明すると活用方法は、次の様になります。
6種類の日誌記録 → 個人毎の月別ケース記録 → (検索にて)各種の必要データを作成
(4)結果として何に役だっているか(複数職員の目で確認し、対応を考える)
記録内容は、職員がどの様な見方で入所者に接しているかで先ず決まる。記録はそういった心の目を通じ、文章や数値になり現れてきます。
報告書を纏めるにしても1人の担当者のみの見方で書かれたデータを纏めあげるのではなく、園生に関わっている数多くの職員の目を通して記録された、いろんなデータからの判断で纏められたものの方が、はるかに正確な結果が得られます。
一人の園生に対し、関わる多くの職員の一人一人の見方、接し方の中から、本当の意味での園生の真実の姿が掴める様になります。
この結果、職員の園生に対する目の向け方が少しずつ変化していき、新しい視点で入所者を見るようになり、職員の意識改革が起こりました。
パソコンによる記録方法として、当園が日常使っている日誌を利用することに力を注いだ理由が、こういったところにもある訳です。
現場職員からのパソコン活用の評価としての意見は、先ず第一に挙げられることとしては、個人ケースをパソコンでまとめられる点です。手書きの頃の入所者の月毎のケースまとめをしていた事を考えるとやはり夢のような事です。それを考えると大変な時間短縮となり、業務省力化になっています。
この事に時間を割かなくて済む分を、実際の個別処遇に対して時間を当てる事ができ、その事は大きな変革であったと思えます。
具体的には、生活上のさまざまな注意点等につき、パソコンを使っての検索ですぐに可能になった事です。76名の入所者に対し各担当職員がさまざまに抱えている処遇上の問題点を解決するための大きな力となっている事を力説したいと思います。一職員の目だけでなく、多くの職員の記録したデータが園生のために活用できている事を、再度お伝えしたい訳です。
新しい職員が就職してきたときに、入所者に関しての最低限の情報はパソコンデータで知ることができるわけです。このことも大きな進歩と言えます。
(5)医療的ケアとの絡みにも活用
また、最重度者が処遇対象の中心となれば指導・訓練という立場のみでなく、毎日の生活の健康管理には医療面との絡みが沢山でて来ます。入所者本人の状況は、保護者自身にもよく理解して貰わなければなりません。何か事が生じた時には、特に日頃から入所者本人に関わる状況を正確に伝えておく必要があります。保護者の方によく理解して貰い、納得して貰っておくことは大切な事です。
入所施設の処遇において、特に大変な問題点は、知的障害に重複して起きる精神科に関わる医療問題です。
癲癇発作について言えば、発作時の状態、発作前後の状態把握をしっかりと指導員に知らせておくと対応に事欠かないのです。
精神障害の例では、症状の出る前の状態がどんな現れ方をしたのか、どの様に医師に伝達しなければならないのか等、重要な報告事項が把握できます。
常日頃から、職員が接するいろいろな状況での、いろいろな接し方を記録しておくことで、正確な判断で対応できるのです。
(6)処遇対応のパソコン活動が全国的に広がっている。
当園の社会福祉施設現場へのコンピュータの導入については、平成4年と5年に九州地区精神薄弱者施設職員研修大会と全国精神薄弱者施設職員研修大会で実践報告をさせて頂きました。
また、平成7年春には当園主催で、福岡県内の施設職員対象のパソコン体験研修会を実施しました。この参加者の中には、東京、鹿児島、長崎、山口から来られた方もあり、関心度の深さに驚かされました。その後も、九州地区の施設長大会で、佐賀県で話をさせて貰ったりした結果、月刊「AIGO」1996年(平成8年)2月号に掲載させていただいた時には、日本ではまだ一カ所と思っていたものが、現在では日本全国津々浦々いたるところに広がっています。
介護保険法の制定とか、現在、医療部門で問題とされるようになった「カルテの共用(開示)」とかいったことからしても、今後ともますます「本当の処遇内容とは何か」とか、「個別指導(処遇)目標」等のあり方に対する厳しさも加わり、情報開示といった事からますます記録への重要性が増すものと考えられます。
(7)20周年の事例報告で大いに活躍
この度、当園の創立20周年に当たり、今まで当園が取り組んできた処遇に対する結果を発表する事になりました。昭和56年の開園当初のことでしたが、園生の選考に際して、当園入所希望者をよく知っておられる方でしたが、その方の意見として、「学校当時から、自分もこの子供達はよく知っています。しかし、学校でも大変に手が掛かる生徒で、入所させるとなると疑問ですね。入所させない方が良いと思われます」と言われる様な対象者ばかりでした。
そういった対象の園生が他の施設からも来たため、重度、最重度の入所者ばかりになってしまいました。
そのような園生が、現在に至るまでの19年間の歳月を当園で生活した訳です。
その結果については、知的障害が無くなって、健常者のようになったという事では無いのですが、入所当時、問題行動とされていたものが、全く改善されたり、軽減したりで、今日まで施設を施錠で管理する事もなく、普通の施設運営で進めてきました。笑顔も多く、伸び伸びと生活しています。
歯科治療も学園内で落ちついた雰囲気の中で、治療日が来れば列をなして受診に来るようになっています。昭和62年から当園に歯科治療室が設置されましたが、その頃の大変な喧騒は今では絶えてありません。
この様な状態変化を是非、日頃からお世話になっている皆様方に報告し知って頂く事が、当園としては一番大切な事であろうと言う事になりました。
そのために、退職して学園には居ない職員が残した資料を、現在の職員がまとめあげる作業を今回、実施してみました。
昭和56年から平成3年度までの資料は、手書きで整理されています。この資料をまとめる事は大変でありました。今回、この作業に従事した指導員の感想は、「整理する事がこんなに大変な事とは知らなかった」と悔やんでいました。しかし、平成4年からの資料に関しては、パソコン内に多くのデータが残っていますし、同時に、検索という手段で、必要なものを探し出すといった事ができ、パソコンの偉大さを知りえる経験を味わった訳です。多大な労働力と時間の節約という事を実感できた訳でした。
記録が多い事は、大変良い事です。しかし、その内容が必要な時に、必要に応じて利用されなければ、何の値打ちもありません。
この度、作成しましたこの資料も、すべて当園のパソコンを活用して作った手作りの資料です。
職員にとって、今回の経験で更にパソコンの威力を感じたものでした。
(8)当園として、今から目指す事(保護者への連絡)
当園で次に目指している事は、保護者とのパソコン連絡です。勿論、プライバシー保護上のセキュリティの問題は考えられなければなりませんが、親御さんは自分の子供の状態を毎日でも知りたいと願っていると思います。
もしも、必要に応じて保護者が自分の子供の状態を把握したいという事であれば、近々の情報を保護者側からのパソコンで、学園のパソコンにアクセスしてデータ情報を得るという事も可能だと思います。
行政との関係においても、行政側が学園の状態を知っておく事は大切な事であると思います。その様なときにもパソコンは大きな力を発揮するでしょう。いろいろな活用方法が今後とも考え出されて行くと思われます。
現在、学園でやっているパソコン活用の方法を一般社会で利用すれば色々な場所で、またいろいろな場面で利用できると感じます。
終わりに
いつも学園の事を気に掛けて下さる皆様方に対し、本当に感謝いたします。
この度、創立20周年を迎える事ができました事も、一重に園生に対する思いと愛情を注いで頂いたからだと実感しております。
20年目を迎え、重度の知的障害を持つ人達には一般の人よりも早い老化が始まって来ると考えられています。知的障害者の老人対策は、介護保険制度の中では、まだはっきりとした形が作られていない状態です。現在でも、入院、治療といった問題が山積していますが、重度の知的障害を持つ人たちの老人問題を真剣に進めて行けば、その結果は一般老人の福祉にも役立つ内容が沢山あると思われます。
今日まで長い間、鷹取学園にご支援ご援助頂きました事に対し心より深謝いたしますとともに、先述しましたような問題が、これからも継続して行きます。今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。
鷹取学園、パソコン導入後の経過概要
平成4年度(1992年)
パソコン9台を処遇現場に導入する。4月より開始。
先ずは、職員全員が入力できるようになる様につとめる。
8月に北九州市の小倉で開催された九州地区精神薄弱者施設職員研究大会で、パ ソコンを処遇現場に導入し、活用している事を発表した。
平成5年度(1993年)
神戸にて開催された全国精神薄弱者施設職員研修大会で実践報告を発表する。
平成6年度(1994年)
全国から、鷹取学園にパソコンの見学者が増える。
平成7年度(1995年)
3月、直方市「いこいの村」に於いて、当園主催で、福岡県内の施設職員対象の パソコン体験研修会を実施。
平成8年度(1996年)
月刊「AIGO」2月号に「処遇現場におけるパソコン活用」についての記事を 掲載される。
ウインドウズ ’95のソフトに変わる。
「検索」が、非常に早くなった。
平成9年度(1997年)
園内にランケーブルを設置。
第37回九州地区知的障害関係施設長研究大会(佐賀県)の第一分科会にて、「処 遇現場におけるパソコン導入の実態」と題して発表。
※ e-eggsのパソコンソフトがCOMPasより出る。
平成10年度(1998年)
カラーレーザープリンタを購入。デジタルカメラ3台を購入。
日誌の文字欄に写真の取り込みが可能になる。
平成11年度(1999年)
日誌の文字欄に写真の取り込み操作を職員が日常的に行えるようになる。
スキャナを購入。過去の手書き資料をパソコンデータに替えて取り込む。
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